日本学術会議 緊急集会 「今、われわれにできることは何か?」に関する緊急報告 平成23年3月18日

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/k-110318.pdf

日本学術会議 緊急集会
「今、われわれにできることは何か?」に関する緊急報告

<会長からのメッセージ>
日本学術会議は、平成23年3月18日15:00~17:20に、日本学術会議講堂において、一般参加者も加えた表題の緊急集会を開きました。この集会は、同日に発出しました「日本学術会議幹事会声明」を受けて、日本学術会議が、一般市民の方々やメディア関係者の方々とともに、「今できること」について、喫緊の問題と、中長期的な問題との区別を意識しながら議論したものです。急に設定した集会でもありましたし、一般市民の方々への衆知も十分ではなかったこともありますので、集会における議論をここにまとめて「緊急報告」として発出することにしました。今後の日本学術会議の行動の方向性にも関わる提案もあり有意義な集会であったと理解します。一般市民の方々や集会に参加できなかった日本学術会議会員・連携会員の方々のこれからの議論と行動の参考にして頂ければ幸いです。

平成23 年3 月21 日 日本学術会議会長 金澤一郎

<はじめに>
まず、この度の東北地方太平洋沖地震に基づく東日本大震災(以下東日本大震災)により犠牲となられた多くの方々に心から哀悼の意を表し黙祷を捧げ、被災されました方々に深くお見舞い申し上げるとともに、現場において身に迫る危険を顧みず不眠不休で事態の収拾、復旧、復興に当たっておられる方々に心から敬意を表しました。日本学術会議としては、この深刻な事態を目の当たりにして、また日本学術会議が科学者・技術者の立場から政府および国民に対して政策を提言する機能を持っている事を合わせて考え、社会に対して負う責務の大きさを改めて痛感し、科学の英知を結集して、社会の持続的な安全と生活の質の維持と向上に貢献する決意を表明しました。この決意表明は、総括的な決意として「幹事会声明」の中に述べてありますが、それに引き続いてこの「緊急集会」を開催し、科学者・技術者の立場から、具体的にどのような貢献ができるのか、について意見交換を行うことにした旨の説明を致しました。その際に集まった具体的な意見を以下にまとめてお示しします。なお、この緊急集会への参加者は、日本学術会議の会員・連携会員88 名、一般参加者60 名、マスコミ関係者42 名、計190 名でした。

<話題提供---共通認識のために>

1.田中俊一氏(元原子力委員会委員)
原子力発電所の現状について最悪のシナリオも含めて解説。水の注入が最大の課題であること、放射能測定をシステムに則って行うべきこと、特に原子力関係機関の総合力を活用したall Japan の体制が必要であること、などを強調。

2.宮川 清氏(東京大学大学院放射線分子医学教授)
漏出放射能の人体への影響について、放医研のHP を中心に解説。

<提案並びに決意表明>

1.【大災害への共通認識】
巨大地震、大津波、原子力発電所の放射能漏出という一連の出来事は、地域、組織、世代、分野を越えて、国民一人ひとりが、自らに関わる問題と受け止め、わが国全体の「緊急事態」であるということを共通に認識した。

2.【柔軟な対応の必要性】
従来から災害への対応のためには、平常の体制とは異なった緊急対応計画が組まれている。そして、今回もその計画に沿った措置が取られている。しかし、今回の大災害は、対応策を設定した時点での「前提」あるいは「想定」をはるかに超えたものであり、この事態に対して十分な効果を挙げることができない場面が見られる。これまでのしがらみを捨てて柔軟な緊急対応策を至急追加し、実施する必要がある。このことは、現時点の緊急課題に対しても、今後の諸課題に対しても必要である。

3.【直ちに構築するべき体制】
原子力発電所施設の事故対応、周辺地域と住民の方々の避難・医療・環境評価、また現場作業に従事している方々への措置などに関して、日本全体のみならず海外の知識と経験を活用することが必須であり、関係者・関係機関の総力をあげて対応する体制を構築する必要がある。そのために総理官邸、原子力安全・保安院、東京電力、原子炉メーカー、原子力安全委員会、原子力研究機構、大学および研究所、医療保健関係団体・機関などの英知と経験を、組織を越えて結集する仕組みを至急構築するべきである。日本学術会議としても、内外の科学者・技術者のネットワークを通じて、その協力体制の構築と運用に貢献する決意である。

4.【直ちに実行に移すべき行動】
①直ちにとりかかるべきこととして、政府との情報交換・対話、情報流通の橋渡しシステムの構築、災害沈静・被災者支援に有効な全国の資源の現地への結集などが挙げることができる。具体的方式としては、過去の大災害において効果を挙げた実績のある「被災地への対口支援方式の導入(市町村単位で特定の被災地を支援する方式)」を進めるべきである。

②原子力発電所の事故に対しては、各方面のエキスパートの意見を取り入れつつ、できる限りの措置が講じられてきたと考えるが、敷地外への放射能の拡散状況の下で、環境放射能の評価システムを用いた測定結果などを公表し、情報を国民と共有するべきである。正確な測定結果を含む情報を適切に公開することにより、安易な楽観視や過剰な危惧を抑制することができる。特に、風評被害が起こらないように十分配慮することが肝要である。

③被災地の現状は、住居はもとより、食料、飲料水、灯油、ガソリン、寝具、衣料、医薬品など、生活必需品の不足が明らかである。その原因にはいくつかの要素があろうが、様々な平時の規制によって食料、薬剤、ガソリンなど必要物資の運搬が行えなかったことがあったとされる。これらの点について、緊急対応のための「特別措置」をさまざまな場面で講じるよう強く要望する。

5.【科学者コミュニテイへの働きかけ】
既にいくつかの専門学協会で活動が始まっている。事実、日本学術会議の第三部(理学・工学部門)では、具体的な議論と行動が開始されている。しかし、日本学術会議は、この事態に対して人文・社会科学を含むあらゆる分野での経験に照らして、必要と考えることを、社会に向けて発信することを要請する。日本学術会議は、それら様々な活動の結節点になる決意である。

6.【教育研究体制への提案】
①大きな被害を受けた教育研究の組織・施設が多数にのぼるが、その救済と長期的な復興支援、当面4月の新学期からの学務スケジュールの柔軟な運用などを強く要望する。日本学術会議は、今後、教育研究現場の問題あるいはニーズを広く調査し、必要な行動を取る決意である。その中には、被災地における大学院生や任期付研究員等への配慮、研究資金の運用にあたっての柔軟な措置、学生のボランティア活動への配慮などもある。

②大災害によって、小・中学校および高等学校の4月からの新学期についても、様々な支障が生じることが予想される。臨機応変に対応するためには、平常時における数多くの「規制」に対しての柔軟な対応を強く要望する。

7.【復旧・復興への計画作成のための体制】
①復興に向けて、科学者・技術者の最重要使命は、災害に対する多くの観点からの科学的調査・分析とそれに基づく復興行動への助言である。特に復興計画作成への貢献が求められる。

②被災地や原子力発電所の現状からみると、事態の収拾、復旧および復興への活動にあたって、医療・保健、原子力、エネルギー、環境、食品、水利、土木・建築、運輸、経済、法律、行政、自治など、広い範囲や分野における科学技術の専門家集団の知識と経験が必須である。これには、省庁、組織、世代を超えて結集した国全体としての総合的な体制の整備が肝要である。

③長期的課題としては、日本のエネルギーの長期ビジョン、復興に向けた地域と日本全体の将来像のグランドデザインなどが含まれるであろうが、その他広く課題の発掘を行い、その対応について早急に計画を立てる必要がある。

以上の諸課題の実行のために、日本学術会議は全力で協力する決意である。

8.【日本学術会議としての行動決意】
我が国が、このたびの大災害の被害から立ち上がり復興を果たし、再生日本を構築でき、その新しい日本の社会が持続的に安全で生活の質も向上し続けるために、日本学術会議はあらゆる方面において貢献する決意である。そのための具体的第一歩として、日本学術会議は「東日本大震災対策委員会」を設置し、会員・連携会員を中心として、日本のみならず世界の科学者・技術者から情報や提案を受けることとし、それらを適切にまとめた上で、効果的な発信を行い、行動する決意である。
-以上―

文責:日本学術会議会長(緊急集会の司会) 金澤一郎
サポート:JST 社会技術研究開発センター長 有本建男

(付)なお、この集会での上記のような個別の意見や提案のなかで、直ちに内閣に届けるべきと私が判断しました以下の2項目については、政府に3 月18 日中に届けましたことをご報告いたします。
1)日本全体の知恵と能力の活用
福島原発の状況は深刻であり、その解決のためには、各省、各政府機関、研究機関、民間、専門家の能力が一元的に機能する体制の構築が必要である。(田中俊一氏の提言)
2)被災地への「対口支援方式」の導入
このたびの被災地が余りに広範囲であることに鑑み、特定の被災地の市町村を、被災地以外の特定の市町村が支援する方式、すなわち「対口支援方式」の導入を提言する。これは、2008 年の中国四川省大地震の際に大きな成果を挙げた。(日本学術会議環境学委員会の提言)

日本学術会議会長 金澤一郎

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