『毎日新聞』社説2011年2月21日付
採用時期見直し 学生たちを教室に戻せ
大学新卒者の就職活動の早期化を正す機運があるものの、企業・経済界の足並みが必ずしもそろわない。
勉強に打ち込めない学生の不安は看過できない。この国の未来にかかわる人材育成にも重大なネックになる恐れがある。学びの機会を損ねない統一ルールづくりが急務だろう。
現在新卒者の就職活動の多くは3年次の秋から説明会やセミナー開催、エントリーシート受け付けなどで始まる。4年次の4月以降選考に入るが、不況や雇用不安で「氷河期」が続き、昨年12月1日現在の内定率は68・8%と96年以降最低だ。これがまた後輩たちの不安を高め、早期化に拍車をかけることにもなる。
しわ寄せは学業にくる。専門教育が佳境に入るころには就活に追われる。大学団体は各経済団体に、選考は4年次の夏以降にするように要請している。
経済団体側の対応は一致していない。例えば、日本経団連の見直し案では、説明会などエントリー開始を3年次の12月以降にし、選考は現行の4月以降を徹底厳守するという。
一方、経済同友会は選考開始をもっと遅くし4年次の8月以降とし、説明会なども3年次の3月以降という意見だ。違反社名の公表もいう。
戦後の経済復興と成長で人材確保競争が過熱し、早期化を防ぐために企業、行政、大学が申し合わせて就職協定を持った。しかし守られず、97年には廃止された。
今回の経団連の案にも、大幅な時期見直しで実効性がなくなる(守れない)事態を避けたい考えがある。また、選考期間が短くなれば、大企業の後に選考を行う中小企業に不利となり、学生も機会を狭められて未就職者が増えるという見方もある。
だが「学業の阻害で国全体の人材レベルが劣化すれば、国益にも、個別企業にもマイナスで、ひいては国際競争力にも影響する」(同友会)という人材危機感は強い。また大学界も学力低下やグローバル化に対応できない教育の見直しなど改革の動きが早まっている。業種が分化、高度化、国際化している今、企業側もかつてのように「原石で採って磨く」ばかりでは通用しない。
大学政策は現在「質の保証」が強く求められ、評価や設置基準の厳格化が流れだ。11年度から情報公開や社会的・職業的自立力を育てるキャリアガイダンスも課程に入る。
私たちは、こうした大学改革・充実を就職とセットにして実りあるものにするためにも、採用選考を8月以降とする案を丹念に論議し、統一ルール化を図ることを提案したい。
また問題の根底にある一発勝負的な新卒採用制を見直し、通年採用を考える論議も改めて求めたい。