クローズアップ2011:就職内定率過去最低 大学、支援に苦心 希望留年や学費減額『毎日新聞』 2011年1月19日付

『毎日新聞』 2011年1月19日付

クローズアップ2011:就職内定率過去最低 大学、支援に苦心 希望留年や学費減額

 文部科学省が18日発表した今春卒業見込みの大学生の就職内定率(昨年12月1日現在)は過去最低の68・8%だった。このままの状況が続くと、進路が決まらないまま卒業し、既卒として再度就職活動に取り組む「就職浪人」になったり、卒業せずに「就職留年」する学生が多数出るおそれもある。こうした学生に対し、単位を取得していても留年を認める「希望留年制度」や学費の減額、既卒者への就職指導など、支援策を打ち出す大学も増えている。

 昨年11月末までに就職が決まらなかった学生は12万6000人に上ると推計される。昨春は8万7000人の学生が進路が決まらないまま大学を卒業、今春はさらに悪化する可能性もある。就職が決まらず、アルバイトなどを続ければ、税金や年金保険料納付にも影響は及びかねない。

 湘南工科大(神奈川県藤沢市)は、昨年4月から「就職支援特別在籍制度」を導入。卒業に必要な単位を取得していながら就職留年を希望する学生は、年間にかかる授業料など約120万円を22万円にし、現役生のまま就職活動に取り組める。

 教養科目を受け持つ教授も、小論文や面接を指導し、全面的にバックアップ。心理学専攻の教授も参加しており、吉田警三・入試課長は「就職活動中にめげてしまう学生の心のケアになれば」と期待する。今年度は約60人が在籍、今も15人ほどが活動を続けている。当初は、1年だけの単年度措置だったが、来年度も継続を決めた。

 吉田課長は「卒業してしまうと企業の学生に対するイメージも良くない。採用してくれないのが実情だ」と制度の意義を説明する。

 青山学院大(東京都渋谷区)も昨年4月から、就職留年などの学生を対象に「卒業延期制度」を開始。年間約100万円の授業料を半額にして、進路・就職センターの職員が個別面談に応じてアドバイス。既卒者にも同じ対応をするという。

 関西学院大(兵庫県西宮市)も06年度から、「卒業延期制度」を実施。在籍者は08年度の83人から09年度には150人と倍増した。海外留学をする学生を想定した制度だったが、ふたを開けると「多くは就職がらみ」(広報担当者)という。

 ◇既卒者に指導も

 就職浪人の道を選んだ既卒者への支援も広がっている。明治学院大(東京都港区)は09年から総合人材サービス会社「パソナ」との連携に踏み切った。卒業生は同社の面接対策講座やマナー研修、履歴書添削などを無料で受けることができる。

 就職活動に失敗した学生が頼るのは大学ばかりではない。

 現役の大学生、大学院生を対象とした就職支援塾「内定塾」は現在、在籍する学生約800人の1割が就職留年を決めた学生だという。昨年度は約200人中5人程度だった。運営会社「ガクー」(東京都中央区)の柳田将司取締役は「就職留年を決めた学生は春以降、次々と訪れた。来年以降も増えるのではないか」とみる。

 大学卒業後、専門学校に入り直すケースも増えている。学校法人大原学園(東京都千代田区)によると今年度、首都圏で運営する専門学校17校には大学・短大の卒業生や中退者計1662人が入学した。14校だった06年度は792人で、2倍を超えた。

 こうした状況に、就職情報サイト「マイナビ」の望月一志編集長は「大学などの取り組みは、若者が正社員になることを支援することであり、社会の一員として税金や年金保険料なども納めることにつながる」と話す。

 一方、就職情報会社「ディスコ」の前岡巧・調査広報室長は、支援策を評価しつつも「就職活動を先送りするために使おうとするならば感心しない。この時期、採用意欲を持った中小企業を見過ごすのはもったいない」とくぎを刺す。【遠藤拓、池田知広】

 ◇3段構えの対策、果たして効果は

 菅直人首相は昨年9月の民主党代表選で「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と雇用対策を前面に打ち出した。政府は9月に予備費を財源に円高・デフレ対策のための経済対策(9178億円)を閣議決定。11月に成立した10年度補正予算でも、事業規模21兆円の緊急総合経済対策を盛り込んだ。これに11年度予算案を加えた対策を「3段構えの対策」と呼び雇用情勢改善を狙うのが政府の基本姿勢だ。

 いずれの対策でも新卒者対策が盛り込まれ、相談窓口強化や、卒業後3年以内の既卒者を試験的に雇ったり正社員に採用する企業に奨励金を支給する制度などが用意されている。経済対策と補正予算による「雇用創出・下支え効果」は65万~70万人程度と見込まれ、このうち新卒者への効果は5万人とされた。

 菅首相は18日、官邸で記者団に「大変憂慮している。就職を希望する全部の卒業生が就職できるよう、やれることはすべてやる覚悟で臨む」と語り、「(求職者と企業をつなぐ)ジョブサポーターを倍増させ、新卒学生の約1万6000人の就職を実現できた」と強調。「ハローワークに電話してジョブサポーターに相談してもらいたい」と呼びかけた。

 問題は対策の効果だが、枝野幸男官房長官は18日の会見で「当初はさらに悪化する底割れが懸念されたが、なんとかそれを食い止めているのが今の状況だ」との認識を示した。その上で「(対策の)1段目が執行に入り、補正の効果がこれから出てくる。本予算の執行で、雇用情勢を好転させることが十分できる」と語った。【田中成之】

Proudly powered by WordPress   Premium Style Theme by www.gopiplus.com