科学予算増額/方向付け明確に示して『河北新報』社説2011年1月13日付

『河北新報』社説2011年1月13日付

科学予算増額/方向付け明確に示して

 政府の2011年度予算案で大幅に増額された分野がある。大学などで先端科学などに取り組む研究者を支援する文部科学省の「科学研究費補助金」(科研費)である。

 10年度当初予算(2000億円)から一気に633億円増え、過去最高の2633億円が計上された。年度末に使い切らなくてはならなかった単年度予算の仕組みも変更し、複数年度にまたがって使えるようにする。

 科学予算は行政刷新会議による事業仕分けなどで無駄を指摘され、縮減を迫られてきたが、ここ数年、ノーベル賞の自然科学部門で日本人の受賞が続き、重要性が再認識されるなど追い風が吹いていた。

 国の予算先細りを憂えていた関係者は、ひと安心といったところだろう。確かに、後に続く若手を育成するにも資金面の支援は欠かせない。

 ただ、科学技術研究費は使い道や成果との関連性が外から見えにくい。仕分けで再三、問題視されたように環境など似た分野への重複配分も目立つ。研究者は国民に対する説明能力を高め、めりはりの利いた運用を心掛けてほしい。

 科研費は、第一線からの申請を受けて審査、支出する競争的資金。増額によって、科学予算の大枠の部分である「科学技術振興費」も11年度、1兆3352億円と2年ぶりにプラスとなった。

 一時は減額で調整が進んでいたが、学術界の意向をくんだ理工系大学出身の菅直人首相が「科学を重視しており、わがままを言わせてほしい」と財務省に指示したのが奏功したという。

 巻き返しを図った背景には、科学技術を支える基盤が崩れかねないとの危機感がある。国立大の基礎的経費で施設整備などに充てられる運営費交付金は04年の法人化以降、毎年1%ずつ削減された。

 11年度は0.5%の減少幅にとどまったが、設備、材料費が十分でなく優秀な若手が集まりにくいなどの影響が出ている。

 各大学は外部資金の獲得を目指して、科研費などへの申請を増やすよう奨励している。東大など研究実績のある旧帝大などは獲得額が大きい半面、地方の大学は研究費の目減りが著しく、格差が広がる傾向がある。

 ノーベル賞自然科学部門で、日本人受賞者はこの10年間で10人に上る。ただ、20~30年前に発見、開発された業績が多く、「日本の優位はいつまでも続かない」と専門家は警鐘を鳴らす。

 この分野でも新興国の攻勢にさらされている。特に韓国は有力な研究機関に予算を戦略的に投入し、国を挙げて人材を育成中だ。研究施設、居住環境、奨学金が整備拡充され、東南アジア、中近東はもとより最近は米国からの留学生も目立つ。

 日本も11年度予算案で、優秀な博士課程修了者に奨励金を出すなど、ようやく若手支援に目を向け始めた。追い上げる新興国、欧米に対し、どう得意分野を創出し、伸ばしていくのか。長期展望に立った明確な方向付けが今こそ、求められている。

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