電子教科書/導入は手順を踏んで慎重に『河北新報』社説 2010年12月29日付

『河北新報』社説 2010年12月29日付

電子教科書/導入は手順を踏んで慎重に

 教育現場への「電子教科書」導入をめぐって、推進と慎重(反対)両派による議論が熱を帯びてきている。

 教科書という「学習ツール」の軸が紙から電子に切り替わることで、子どもたちにどのような影響が生じるのか、その及ぶ範囲を広くとらえて丁寧に検討してほしい。

 議論が活発化する呼び水になったのは、民主党政権が教育へのICT(情報通信技術)活用に向けて積極姿勢を打ち出したことだ。デジタル教材の開発が進行している背景もある。

 政府は学校教育の情報化を進める工程表をまとめ、2020年度までに情報端末を「1人1台」配備する計画を示した。

 文部科学省の学校教育に関する懇談会は教育の情報化ビジョンに、「電子黒板」の導入支援策の検討、電子教科書の開発促進などを盛り込んだ。総務省も全国の公立小10校を選び、1人1台の実証実験を始めた。関連企業などによるデジタル教科書教材協議会も発足した。

 電子教科書は、教科書の内容に準拠した教育用デジタルコンテンツ。電子黒板に文字や動画などを映し出す指導者用と、回線で結んだ学習者用からなる。

 文字、映像、音声などの機能の活用で、分かりやすく多彩な授業の可能性が広がる。ネット社会に対する順応力が高まる利点も強調される。

 もとより、教育のデジタル化によって授業や学習の方法がどのように変わり、学力や学習効率向上にどれほど貢献するのか、予見するのは容易ではない。先行事例の検証が欠かせない。

 導入に当たって論ずべき点はほかにもある。

 魅力的なツールであればあるほど、授業が電子依存を強めて、画一的になる心配はないのか。知識習得に役立つとしても「考える力」「生きる力」を育むことにつながるのか。情報機器に取り巻かれる生活が加速することで、生身の人間関係への興味や自然への関心を損ねることがないのかといった論点だ。

 豊かな感受性などの人格形成に加えて、視力の低下など健康面への影響も考慮する必要がある。経費も膨大で、費用対効果も見定めなければならない。

 ベテラン教師らの戸惑いも想定される。研修と研究を重ねて現場の理解と協力を得なければ、十分な成果を望めない。不安視する保護者が少なくないとみられ周知も課題となる。紙文化の後退を懸念する指摘もある。

 新しい技術への過大な期待と過剰な警戒感から不毛な論戦に終始して、功罪を掘り下げ対処法を見極める作業もあいまいに導入が進む事態は避けたい。

 電子書籍端末が続々登場し、今年は「電子書籍元年」の趣だった。テレビも来年、デジタル放送に移行し、情報化・デジタル化社会の流れは止まらない。

 韓国やシンガポールは12、13年に電子教科書の本格導入を予定し、米国や英国も積極的に取り組んでいる。そうした流れを受け止めつつも、広範な議論と手順を踏んで、「授業革命」の光を最大に影を最小にする確かな方法を探っていくべきだ。

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