『河北新報』社説 2010年12月30日付
奨学金/広い視野で拡充の工夫を
能力がある。もっと学びたい気持ちも強い。だが、大学進学を望む志の前に壁が立ちはだかる。授業料は高校よりはるかに高い。自宅を離れれば住居費がかかり、生活費もかさむ。家計の苦しさから学業を断念する若者が後を絶たない。
個別の事情だ、働きながら学ぶ人もいる―と個人の問題にすり替えるような風潮がなかったか。窮状に救いの手を差し伸べる仕組みには、十分とは言えない側面があった。
独立行政法人「日本学生支援機構」(旧日本育英会)の奨学金を利用する学生は2010年度、約118万人と10年で2倍以上に増えた。そのうち無利子奨学金受給者は全体の3割にすぎない。無利子枠が不足し、成績や親の所得などの基準を満たしても利用できない人は、毎年約2万6千人に上る。
景気が急激に落ち込み、失業や給与の大幅カットに苦しむ世帯が急増している。この現実が制度の拡充を求めている。文部科学省は、無利子枠の拡大や授業料の減免などを11年度予算案に盛り込んだ。
大学生の無利子奨学金の枠は9千人増の35万8千人とする。基準から外れてもボランティアの経験を支給審査の対象に加味することも運用の中で検討している。有利子枠も広げ、貸与人数は現行の約118万人から約127万人に増やす。
国の厳しい財政事情から概算要求より規模は縮小したが、この問題はそもそももっと広い視野から論じるべきだろう。意欲的な若者に希望する教育を受けられる仕組みを提供するのは、社会の責務だという視点を優先したい。次年度以降、継続して予算措置の拡大を望みたい。
諸外国の実情にも目を転じれば、課題がより鮮明になる。経済協力開発機構(OECD)の07年の調査では、国内総生産(GDP)に占める日本の公的な教育支出の割合は28カ国の最下位だ。高等教育の私費負担割合は、日本は67.5%とOECD平均の2倍を超える。国立大学が中心の西欧諸国では授業料がほぼ無料という国が多く、私立が多い米国では返還の必要のない給付奨学金が広く普及している。
ことし4月から公立高校の授業料を徴収せず、私立高生にも世帯の所得に応じて助成する制度が始まった。中学まで支給される子ども手当と合わせ、一貫した支援体制が敷かれた。とはいえ、家計が安心できる状態ではない。日本政策金融公庫の調査では、高校入学から大学卒業までにかかる費用は1人当たり約1060万円にも上る。
奨学金受給者は卒業と同時に多額の借金を背負って社会に出る。卒業したものの就職難や収入減から返せない人も増え、09年度末の未返還額は約777億円に達する。
民主党は「教育立国」を掲げ、昨年の衆院選マニフェスト(政権公約)で給付型奨学金の検討をはじめ、大幅な制度改革を打ち出した。雇用と賃金が不安定な中、利用者の使い勝手が良く、効果的で弾力的な運用を期待したい。