新教育の森:未来型授業、仕分けで廃止 始動したばかり…現場にとまどい『毎日新聞』2010年12月4日付

『毎日新聞』2010年12月4日付

新教育の森:未来型授業、仕分けで廃止 始動したばかり…現場にとまどい

 政府の行政刷新会議が11月に実施した「事業仕分け第3弾」では、教育関連の事業もやり玉に挙がった。子どもたち全員にパソコンを配る未来型授業の有効性を検証する事業と留学生増を目指す事業は、いずれも始まったばかりで「廃止」の判定。関係者にとまどいや反発が広がっている。【遠藤拓、井上俊樹】

 教室の机の上には、教科書やノートの代わりに1人1台のタブレットPC(タッチパネル式の小型パソコン)が置かれている。B5判程度のコンパクトサイズだが、機能は優れものだ。

 「みんなで社会科見学のまとめを発表しましょう」。長野市の市立塩崎小学校。11月25日、5年生の授業で近藤諭教諭(39)が呼び掛けると、子どもたちはパソコン画面上の「まとめ」のファイルを開いた。社会科見学で訪れたキノコを生産する会社や運送会社などで撮影した写真が、それぞれの感想文とともに画面上に現れる。近藤教諭が発表する児童を指名し、教室前方の「電子黒板」に映った席次表で名前をクリックすると、この児童の「まとめ」が電子黒板に大映しになる。他の子どもたちは電子黒板を見ながら児童の発表に耳を傾けた。

 ◆児童全員に小型PC

 近未来の教室風景を想像させるこの授業は、総務省が主導する「フューチャースクール推進事業」の1校に選ばれたことで実現した。教室でICT(情報通信技術)機器を駆使することによる課題を検証する事業で、NTTコミュニケーションズなど2社が調査研究を請け負い、今年度から全国の10小学校を対象にスタートした。塩崎小も10月には318人の児童全員にタブレットPCを配った。

 ところが、始まったばかりのこの事業の雲行きが早くも怪しくなった。総務省は3年間事業を継続し、11年度は中学、高校など40校にも拡充する予定だった。しかし、11月15日に開かれた事業仕分け第3弾の判定は現行10校分について来年度「廃止」、拡充分も「理由が見当たらない」として事実上の廃止を求めた。

 そもそも、この事業は昨年の事業仕分けで「予算計上見送り」と判定された「ICT利活用型教育の確立支援事業」の内容を一部変えて名称も変更し、復活した。昨年も「モデル事業としての将来ビジョンが乏しい」「文部科学省が主導すべきだ」などと指弾されたが、今回もほぼ同様の指摘が相次ぎ、仕分け人からは「露骨な看板の掛け替えだ」と嫌悪感が示された。

 この結果に塩崎小の田原徹校長は「ICTをうまく活用できれば、子どもたちに与えられる情報の質が上がり、きめ細かい指導も可能になるのに」と肩を落とす。

 課題は山積している。この日は児童のまとめた資料を電子黒板にうまく映し出せないトラブルが何度も発生した。教師によって機器の習熟にかなり濃淡がある。それでも、田原校長は言う。「実証実験で、誰かが改善点の洗い出しをしないといけないが、それが仕分けで滞るとすれば残念だ」

 文科省はこの事業とは別に来年度からICT機器の実証研究を始める予定だ。塩崎小など10校も対象に含めることを念頭に置いているが、文科省の事業も予算が得られると決まっているわけではない。

 ◇留学生受け入れ支援も

 一方、国際化拠点整備事業(グローバル30)は08年に文科省や外務省などが策定した「留学生30万人計画」の実現に向けた事業の一環。優秀な留学生を増やすことで大学の国際競争力を高め、日本人学生の国際感覚を養うことも目指す。英語だけで受講・卒業できるコースの創設や国際公募による教員採用、留学生の受け入れ窓口となる海外拠点の設置などに取り組む大学を30校程度選び、5年間にわたって財政支援する計画だった。

 初年度の09年度は約40億円の予算で、東京、京都、東北、名古屋、大阪、九州、筑波の国立7大学と早稲田、慶応、上智、明治、同志社、立命館の私立6大学の計13大学が採択された。13大学の計画では事業開始前の08年度に合計約1万6000人(留学生比率6%)だった留学生を5年後に3万人(同9%)、20年度に5万人(同14%)に増やすことを目指した。

 ◆昨年度に「予算縮減」

 ところが、昨年の事業仕分けで「留学生の受け入れはそもそも大学の本務」「効果が不透明」などとして「予算縮減」と判定。10年度予算は約30億円に減り、30校に増やすはずの当初計画も頓挫。30億円弱に減らして要求した11年度予算も再び事業仕分けの俎上(そじょう)に載った。文科省は事業の必要性を強調したが、既に立ち上がっている85の英語コースの在籍者が454人と、1コース平均5・3人に過ぎないことなども明らかになり、仕分け人は改めて「効果が不明」と指摘、「いったん廃止」と判定した。

 これに対し、すでにロシアやベトナムなど7カ国に海外事務所を設置し、来年秋入学の留学生の募集を始めている13大学は大きく反発。11月25日には「21世紀の世界で日本が生き残るため、世界から優秀な人材を獲得することは不可欠」とする共同声明を発表した。事業仕分けには拘束力がなく今後の対応が注目されるが、文科省は来年度以降について「どういう形で予算に反映できるか検討しているが、最終的には政治判断になる」としている。

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