イノベーション競争:ドイツの戦略は--教育研究省次官に聞く『毎日新聞』 2010年11月2日付

『毎日新聞』 2010年11月2日付

イノベーション競争:ドイツの戦略は--教育研究省次官に聞く

 イノベーション(革新)を目指す世界競争が激しさを増している。日本と同様、厳しい財政状況ながら教育・研究予算を増やし、積極的に外国人研究者や留学生を受け入れているドイツの戦略を、10月来日したドイツ教育研究省のゲオルグ・シュッテ次官(48)に聞いた。【聞き手・西川拓】

 ◇研究開発、分野絞り集中投資

 --研究開発の現状は?

 08年の研究開発予算は対GDP(国内総生産)比2・64%(日本は3・78%)だったが、09年は2・8%に伸びる見込みだ。3分の2が民間企業、3分の1が公的資金。連邦政府も企業も予算を増やしており、ここ数年の経済危機でも傾向は変わらない。

 08年の金融危機で景気対策や金融制度維持に多額の予算を投入した結果、財政が逼迫(ひっぱく)し、14年までに800億ユーロ(約9兆円)の予算削減を強いられた。だが、メルケル首相の強い意向で教育と科学の分野には逆に120億ユーロ(約1兆3000億円)を追加支出した。教育と研究はイノベーションの基盤だ。

 --イノベーション競争に勝つ戦略は?

 気候変動・エネルギー、健康・食料、交通、安全、情報通信の5分野に集中投資する「ハイテク戦略」を昨年公表した。具体的なプロジェクトを選び、産学官の代表を年に4回集めてどう実行していくかを協議している。

 --投資分野を絞ることに反発はないか。

 先ほど言った120億ユーロの追加投資によって、各研究機関の予算を5%増やした。研究者の好奇心に従って行う自由度の高い研究に資金を配分している。

 --外国人研究者や留学生への支援が手厚いのはなぜか。

 最も才能にあふれた人々をドイツに集めたい。国際的な流動性を高めることで、研究の成果が上がる。今ではドイツの大学の学生の10%が外国人だ。

 --スペインのサッカーチームのように、全員外国人になってもいいと?

 理論的にはあり得る。既に半分が外国人という研究チームはある。ドイツのプロチームで活躍する香川真司選手のように、優れた外国人研究者がドイツで活躍してくれることは素晴らしい。

 --日本では博士号取得後の進路に不安を抱える若者が多い。

 自然科学分野では企業から博士の求人が多数あって、むしろ応募者が足りないくらいだ。特に女性がこの分野に入って来やすいような施策を実施している。また、若手の研究ポストを創設したり、留学から帰国した博士課程の学生の就職支援プログラムなども実施している。

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 ■人物略歴

 ◇ゲオルグ・シュッテ氏

 62年生まれ。独ドルトムント大、米ニューヨーク市立大でジャーナリズムを専攻。94年博士号取得。アレクサンダー・フォン・フンボルト財団事務局長などを経て09年12月から現職。

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