大学とは何か、キャリア教育や大学予算の貧困に危機感広がる/中教審・大学分科会『朝日新聞』大学取れたて便2010年11月16日付

『朝日新聞』大学取れたて便2010年11月16日付

大学とは何か、キャリア教育や大学予算の貧困に危機感広がる/中教審・大学分科会

 大学とは何かという根本命題が教育の面からも財政の面からも問われている。関係者の危機感が強くにじみ出ているものの、方向性が見えない無念さもうかがえた。

 11月15日に開かれた文部科学省の中央教育審議会大学分科会。文科相の諮問機関で、今後の高等教育の政策を議論する有識者による会議だが、この日は、(1)キャリア・職業教育のあり方を議論してきた特別部会の答申案について大学分科会が意見を述べる(2)文科省の来年度予算の概算要求・要望について(3)今後の審議テーマについて、が議題となった。

 いずれも、高等教育政策を考えるうえでは重要なプロセスで、委員から意見が続出した。

 キャリア・職業教育についての答申案は大学分科会とは別の部会がまとめたものだが、わかりやすくいえば、大学とは何かという問題が突きつけられたともいえる。

 学校から大学の教育のなかでキャリア・職業教育を充実させることを答申案は述べている。それに関連する形で、「職業実践的な教育に特化した枠組み」という考え方が提案されている。

 これは、「枠組み」という表現になっているが、大学のような新しい学校の種類(新学校種)を新設することで、専修学校専門課程(専門学校)などを移行させることも示唆しているが、実質的には先送りの様相になっている。

 雇用構造や職業と学校、企業の関係が様変わりするなかで、職業に直結した新たな学校の種類や仕組みをつくる必要はあるのかどうかということで、何十年も前から結論の出ないテーマだ。

 大学分科会のかなりの委員は大学関係者なので、新学校種をつくることには距離感がある。しかし、大学自身が新たな雇用・職業の環境に対応できていない面もあることは認める委員が少なくなかった。次のような意見が出た。

 「専門学校はいろんなものがある。大学もかなりキャリア教育をやっているが、必ずしもうまくいっていない。新学校種の問題は、大学でも対応はできる。働くことと勉強することは一体化したほうがいい。新学校種をつくらなくてもやりようがある」

 「大学には自治がある。自分で変わってもらわないと困る。いらいら感がある」

 「答申案はキャリア教育に主眼があるのか、専門学校に主眼があるのか。財政支援はどう考えているのか」

 「大学でできないことはない」「大学の姿が問われている」「新学校種をつくることで思い切ったことを考えているのか。既存の大学の設置基準を変えられないから、つくろうとしているのか」

 これに対して、答申案をまとめた部会長は「新学校種ではなく、枠組みという書き方をした。いままでの延長線上で議論するのは危険。枠組みという考え方を活用したい」。事務局の文科省担当者は「枠組みの有力方策として新学校種を考えている。大学・短大でできないものではない」などと答えた。

 専門的で難しい議論だが、不況や雇用・産業構造の変化、グローバル化で、企業の求める人材に大学が答えていないという批判がある一方で、大学がそもそも就職に特化する教育をするようなものでもないという伝統的な考え方がある。

 しかも、800以上もの大学・短大の機能も異なるのに、すべてを一緒に議論できないという側面もある。大学が研究教育のほか就職などの人材育成というものに答えていない、または答えていないとして別の新学校種を設けるとすれば大学は何をすべきなのか、改めて問われるということになってくる。

 結局は、キャリア・職業教育の答申案という存在が大学そのものを問う「あぶりだし」になったようにみえた。

 続けて、来年度予算案の概算要求・要望の説明があった。政府の財政状況の厳しさから、各省庁は義務的な人件費も含めて10%マイナス要求をして、それよりもさらに減らして要求する分は3倍を特別枠として要望できる仕組みをつくった。それをパブリックコメントと政策コンテストで評価して、12月に決めていくという。

 高等教育を含めた予算もかなり厳しい状況で、これまで国立大学の運営費交付金や私学助成金ともに減額が続く。今回の概算要求では、上述した仕組みを駆使して、昨年を上回る要望を出した。しかし大学の経常費をまかなう交付金、助成金も、政策コンテストにかけられ不安定となっている。これに対して、パブリックコメントは文科省についてはかなり意見が寄せられ、各省庁のなかでも群を抜いている。文科省自身がコメントを重視していたことや大学や教員、学生からの関心を刺激したことがあげられる。

 大学分科会では、パブリックコメントが文科省の「組織票」という批判もあるものの、「若い人からのコメントが多く、組織的とは考えられない。政府からの予算配分が少ない構造への不満がある」「毎年、こんな予算編成をするのは間違い」などの意見が出された。また、「厳しい状況にある。高等教育が何をしようとしているのか。福祉や地域も含めて大学がどうしていこうとするのか考えることが必要」いう視点もあった。国立大学、私学ともに政府による予算状況は厳しく、かなりの不満、政府への不信感が募っているといえそうだ。

 今後の大学分科会の進め方では、「大学の機能分化」というテーマに注目している委員が少なくなかった。大学といっても、研究に特化するのか、教育や教養に力を注ぐのか、地域のなかでコミュニティーの中心になるのか、さまざまな機能がある。生き残るためには、総合型の大学では難しく、特徴を出すしかない。どうすれば、その方向性を打ち出せるのか、なかなか変わらない大学の悩みは深い。

 いくつかの意見が出たが、「個人の意見」と断ったうえで発言した安西祐一郎・分科会長の話を紹介する。「リサーチに特化するなどのメリハリのついた大学にならないといけない。大学の機能分化を追求していけば予算もついていくように提言すべきだ。法制化、制度化しないと機能分化はできない」。

 かなり思い切った発言だった。制度化にはいくつかの壁が考えられるが、それだけ大学自身の研究教育機能、予算的な裏付けへの困難さを考えると、危機感が強いといえる。

山上浩二郎(やまがみ・こうじろう)/朝日新聞編集委員
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