奨学金利用増 学生苦境「払えない」『琉球新報』2010年11月19日付

『琉球新報』2010年11月19日付

奨学金利用増 学生苦境「払えない」

 県内5大学の奨学金受給者数が5年前に比べ65%増と急増している背景には、県内の厳しい経済状況が横たわる。学生からは家計の厳しさを訴える声があり、沖縄国際大学の富川盛武学長(経済学)は「奨学金の受給者数は経済のバロメーターだ」と指摘する。各大学は近年、独自の奨学金や授業料減免制度を拡充するなど、学生支援に懸命だが、「申請が多く対応しきれない」「大学だけでは解決できない問題も多い」など、抜本的な打開策を見いだせないのが実情だ。

 各大学には「両親の会社の経営状態が悪化し授業料が支払えない。支払期限を延長できないか」といった相談が多く寄せられている。ある大学は「学ぶ意欲はあるが、経済的な面で休学・退学せざるを得ない学生が多数存在する」と訴える。

 「奨学金が家計に回されている実態もある」との指摘や、「(卒業後)日本学生支援機構の奨学金の返還が難しい」「学生の就職難を理由に保証人を断られるケースもあった」など、現在の奨学金制度の問題点を挙げる声も多い。

 多くの学生は日本学生支援機構の貸与型の奨学金を利用しているが、沖縄は失業率が全国一高く、所得は全国最低レベル。返済に苦しむ卒業生は少なくない。

 こうした事態に対応し、各大学は独自財源による給付型奨学金を拡充してきた。その額は年々増え、2009年度は沖縄国際大で年間約1億5千万円、沖縄大で約1億円、沖縄キリスト教学院大が約4千万円、名桜大が約3500万円に上る。

 沖縄国際大は「兄弟姉妹等支援奨学金」「学生サポート奨学金」など新制度を年々拡充。沖縄大は後期採用の奨学金制度や主に夜間の講義を受ける学生への給付など、きめ細かい対応を続けている。名桜大は公立法人化した4月に授業料減免制度を創設。琉球大は教職員の寄付金で「学生援護会」を設置しているほか、「授業料免除等も検討している」という。(佐藤ひろこ)

◆抜本的制度改革を/加藤彰彦沖大学長

 経済的に厳しい家庭では、初めから大学進学の選択肢はない。その意味では、大学に進学できた学生たちは、県内では比較的恵まれた経済環境なのだろうが、それでも奨学金を活用しなければ卒業できない現状になっているという裏付けだ。

 500人近くの人が経済的な事情で学びを阻害される状況は、将来の沖縄を担い、社会貢献するはずだった人材の芽を摘んでしまうことで、社会的損失は大きい。子どもたちの学びを支えるのは社会的責任だ。奨学金の返済も厳しく、このままでは大学進学率がさらに下がる可能性がある。

 各大学とも給付型の奨学金を拡充するなど、きめ細かい対応に努めているが、大学経営も厳しい。国による給付型奨学金制度の拡充など抜本的な制度改革が必要だ。当面は、優秀で意欲がありながらも経済的な理由で大学進学を断念する生徒を高校側が推薦し、国が支援する制度の創設が必要ではないか。

 (沖縄子ども研究会代表、談)

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