タフな若者が日本を変える『読売新聞』2010年11月17日付

『読売新聞』2010年11月17日付

タフな若者が日本を変える

調査研究本部研究員 中西 寛

 タフな東大生たれ――東京大学の浜田純一総長(学長)が、2009年の就任時から言い続けている。「勉強ができるだけのひ弱な東大生」というイメージを覆したいという思いもあるに違いない。実際、東大にもタフな学生はいるのである。

 筆者は、東京大学の「総長賞」の審査をする会議の委員を務めている。前期は課外活動、社会活動、大学間の国際交流などで、後期は学業で、極めて顕著な功績のあった個人や団体に賞を贈る。

 この総長賞の受賞者にも、タフさを評価される受賞者が目立ってきた。たとえば、昨年前期は、ユーラシア大陸を自転車で縦断した学生が受賞した。言葉を学び、肉体的な訓練も重ねての達成で、その様子は逐次、ブログでも発信された。

 今年前期の受賞者のひとりが、大学院新領域創成科学研究科国際協力学専攻の博士後期課程で学ぶ長山大介さんだ。サステナビリティー(持続可能性)をテーマに、カナダで5月に開かれたG8スチューデントサミットで東大の代表を務めた。2007年には、東京大学学生国際交流機構も作り、初代代表となった。東大と北京大学の学生が交流する「京論壇」でもスタッフの経験がある。「日本の国際的プレゼンスの向上に貢献すること」を人生の目標にしているという。

 そんな長山さんは、サミットでも深夜に及ぶ議論で積極的に発言し、最終提言書の起草委員会メンバーにもなった。タフ・ネゴシエーターの東大生と言えるだろう。

 ただ、長山さんのリポートを読むと、日本人学生の置かれた立場も気になる。彼自身、高校まで米国で過ごし、英語がネイティブと言えるという特異性が強みになったと分析しているからである。

 「日本や東大というよろいがある場ではまだいいが、全員が対等な立場で参加し、声の大きさ、発言の回数が存在感と直結する会議では、東大生はなかなか存在感を示せないのではないか」と長山さんは見る。国際的なレベルの議論に慣れていない日本の他大学の代表は、全体の議論でひと言も発言できなかったという。

 そもそも、今回、東大の代表候補として、面接選考に残ったのは6人だったが、その中にも留学生が複数いたと聞けば、長山さんならずとも、危機感を覚えるだろう。

 長山さんを見ていると、タフな若者こそ、日本が現在置かれた状況を変えてくれるのではないかと思えてくる。しかし、日本の大学生全般に目を移せば、留学者数が減少するなど、内向き志向が強まっていることが心配になる。その原因の一つに、就活の早期化があると言われている。

 日本の学生たちに、長山さんのような心意気で頑張れと呼びかけたい。同時に、学生たちの目を外に向けるための努力を私たちもしなければいけないと思う。

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