この人に聞く:地域への医師定着、必要なことは? 茆原順一・秋田大病院長『朝日新聞』秋田版2010年11月9日付

『朝日新聞』秋田版2010年11月9日付

この人に聞く:地域への医師定着、必要なことは? 茆原順一・秋田大病院長

 70年に戦後初の国立大医学部として設立された秋田大医学部。県内外に多くの人材を輩出してきたが、近年は研修医の減少など課題も抱えている。また県内病院の医師不足も深刻さを増す一方だ。同大出身者では初めて付属病院長に4月就任した茆原順一さん(59)に、病院の取り組みや医師不足解消への課題を聞いた。【聞き手・岡田悟】

 ◇大学と往復で人材育成 医療の質と将来性確保を

 ●県内でも医師不足が叫ばれており、育成や派遣を担う秋田大医学部や付属病院への期待は大きい。

 医学部設立時と06年の県内の人口10万人あたりの医師数を厚生労働省の資料を基に解析したところ、大幅に増えている。地域医療に果たしてきた役割は少なくない。県内で多くの出身医師が活躍しており、県全体の医療体制が不十分だとの指摘や批判には身を切られる思いがする。

 ●卒業生の定着状況や、定着のための取り組みは?

 (09年度の卒業生100人中、付属病院での初期臨床研修医11人は)多いとは言えず、反省しないといけない。(卒業生が研修先を自由に選べる)新医師臨床研修制度が04年度に始まる前から、この制度では地域医療がめちゃくちゃになると懸念していた。ただ、県内の他の研修指定病院にも卒業生の研修医はいる。

 付属病院では、模型を使って内視鏡検査や心肺蘇生などを訓練する「クリニカル総合シミュレーションセンター」(仮称)を来秋にも設置する。県内の医師や看護師らへのキャリア教育を充実させ、県内医療全体の向上につなげる。初期臨床研修後に専門医研修を受ける医師も増やしたい。

 ●医師定着のために必要と考える県内での取り組みは?

 秋田は、医師1人あたりでカバーする面積が広い。そのうえJA秋田厚生連の新築病院の多くは交通アクセスが良くない。また医師数を増やすだけでなく、地域医療の質や将来性を維持することも重要だ。研修医をただへき地に派遣すればいいというわけではない。

 医学部としては研修医一人一人の特性を見極め、将来に責任を持って教育する必要がある。

 付属病院はダイナミックな教育システムとして有効だ。研修医が県内病院での一定期間の研修後、付属病院に戻ってより難しい症例に挑むなどキャリアアップし、再び他の医療機関で活躍するという方法を提案したい。実現には県内の研修指定病院の理解が必要で、丁寧に説明したい。

 ●県や厚生連が打ち出した湖東総合病院(八郎潟町)再編論議で、県議会から「秋田大が医師派遣に難色を示している」との見方も出されたが?

 秋田大が派遣している医師を引き揚げて(病院を)つぶすという考えはまったくない。教授の命令一つで医師を派遣したり引き揚げたりできる時代でもない。

 秋田大医学部として言いたいことは、こちらの人材を有効に活用してほしいということ。行政や厚生連が地域医療への姿勢を明確にしたうえで、秋田大に求める役割を示せば、こちらもできる限りのことをする。

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