奨学金の理念に反する「社会貢献活動」の無利子貸与条件化 国民のための奨学金制度の拡充をめざし、無償教育をすすめる会(奨学金の会)2010年10月26日

http://www1.ocn.ne.jp/~shogaku/gazo/101026seimei.pdf

奨学金の理念に反する「社会貢献活動」の無利子貸与条件化

■奨学金の「目的外使用」は許されない

2010年10月21日、読売新聞は「無利子奨学金の貸与を大学生らが受ける際の条件について、成績や世帯収入に加え新たに『社会貢献活動への参加』を追加する」方針を文部科学省が固めたと報道しました。これは2011年度概算要求の「政策コンテスト」にむけて、文部科学省の鈴木寛副大臣がホームページで「【高等教育関連】我が国の将来を担う『強い人材』を育成するため、大学の機能強化や学生の学びへの支援に必要な方策は?」と問いかけた重点項目の中にも書かれています。すなわち「①『学びたい人を応援します』ー学生生活を通じて社会的自立を図り、『新しい公共』の担い手として活躍していただくため、奨学金等の経済的支援を受ける学生に対して、成績だけでなくボランティア活動や研究成果の普及活動などを奨励していく」というものです。

私たちは奨学金制度の拡充を求めて運動をすすめてきた立場として、「社会貢献活動の条件化」は奨学金の「目的外使用」であり、制度の理念に反するものとして断固反対します。

■国の責任を頬かむりする「新しい公共」

いうまでもなく、公的奨学金制度は憲法第26条「教育をうける権利」、教育基本法第4条「教育の機会均等」を保障するためにあります。本来、国や自治体は国民が経済的理由で教育の機会を失うことがないように、学費の無償化や給与制奨学金などを措置する責任があるのです。しかし、政府は教育予算を減らし、「世界一高い」高等教育費の私費負担を国民に押し付けてきました。「奨学金」も諸外国では「給与制」を意味しますが、日本には「ローン=貸与制」しかなく、その上に有利子が75%を占めています。比較的負担の少ない無利子貸与を希望する学生が増えていますが、政府が有利子だけを拡大してきたために、予約採用の段階で無利子貸与の採用条件を満たす生徒のうち、約8割が不採用となっています。このような中で親の収入による経済格差が子供の教育格差につながり、「貧困と格差」が拡大・固定化されてきているのです。「学びの支援に必要な方策」とは改めて国民に聞くまでもなく、教育予算を拡充し、教育による貧困と格差の連鎖を断ち切ることです。無利子奨学金を拡充することは望ましい方向ですが、そこに新たな貸与条件を加えることは、「新しい公共」という名で国の責任を免罪することになります。

■「アルバイトと就活に追われる学生に“ボランティア”!?学生はいつ学ぶのか」

不況の中、現実の学生生活は厳しさを増しています。日本学生支援機構の学生生活調査から、2000年と2008年の数字を比較すると大学昼間部の学生一年間の学費が112万円から118 万円と5.5%上がっているのに、生活費は94 万円から68 万円と27.8%下がっています。収入の割合をみると家庭からの給付(仕送り)が減り(73.2%→65.9%)、奨学金(7.0%→15.3%)とアルバイト(16%→16.3%)に頼る生活になっています。全学連が行った学生アンケート(学費・雇用黒書2008)にも「奨学金を受けていたが、授業料が払えずにアルバイトを増やした。その結果授業に出ることができずに成績が下がり、留年が確定、奨学金を受けられなくなった」「バイトしないで勉強したい、学費が下がればボランティアなど積極的にやりたい」等、高すぎる学費・生活費負担が学生の学習活動や社会貢献活動を妨げている実態が明らかになっています。文科省が「ボランティア活動を奨励していく」のであれば、先に授業料等の減免など教育費負担の軽減措置を図るべきです。逆に昨今の就職難の中、「アルバイトと就職活動で授業に出られない」という悩みが広がる中で、無利子の貸与条件に「社会貢献活動」を入れることは、経済的に困難な学生ほど、無利子奨学金が申請できなくなることが予想されます。

■ ボランティアと「教育」の精神に反する「見返りに大学への機会」

本来、学問や知識、技能は社会の共有財産であり、その財産を次世代が継承し、発展させることによって社会全体が発展していくことが可能になるのです。ですから「教育の最大の受益者は社会」であり、広い意味で「社会貢献活動」と考えるべきです。一方、ボランティアは自発的なものであり、強制したら「ボランティア」とは言えません。ところが、学生のボランティア活動に「無利子貸与条件」という「私的利益」を加えるとになれば、まず個人への還元を求めないはずのボランティア精神が歪められ、次に「奨学金制度」や「教育」という行為自体が「私的利益」に変質させられます。アメリカでは徴兵制がないかわりに「入隊すると大学費用を負担する」という宣伝文句で、貧困層の学生や民間教育ローンの返済に苦しむ若者を戦場に送り出しています。国が国民にボランティアを(経済的にも)強制するとき、それは社会全体の危機だと感じるべきです。

■政府は「学びを支える社会」の公約を果たせ

「構造改革」路線が作り出した「貧困と格差」の解消を求める声が大きくなった2009年の総選挙では、すべての政党が「教育無償化」や「奨学金拡充」を公約に掲げ、新政権においても「高校無償化」への動きにつながりました。私たちはこの流れを歓迎するとともに、2011年概算要求における教育負担軽減策(高校生に対する給付型奨学金事業の創設、大学等奨学金事業・授業料減免等の充実 等)を着実に実施することを求めます。教育は社会の基盤をつくり、広く国民に未来に対する希望を与える最も重要な分野であり、「政策コンテスト」など他の事業との意見の大きさを競うべきものではありません。無利子奨学金予算枠の確保のために、「目的外」の条件をつける姑息な手段をとるのではなく、「学びを支える社会」実現のための教育予算の抜本的拡充を求めるものです。

以上

2010年10月26日
国民のための奨学金制度の拡充をめざし、無償教育をすすめる会(奨学金の会)
会 長 三 輪 定 宣

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