2011 年度私立大学関係予算に関する見解 東京私大教連中央執行委員会 2010 年10 月6日

2011 年度私立大学関係予算に関する見解

2010 年10 月6日

東京私大教連中央執行委員会

菅内閣は2011 年度予算編成にあたり、7 月27 日に『平成23 年度予算の概算要求組換え基準について~総予算の組換えで元気な日本を復活させる~』を閣議決定し、「新成長戦略」を推進するために、省庁の枠を超えて総予算を大胆に組替えるとの方針を打ち出しました。「概算要求組替え基準」は、民主党がマニフェストで掲げた施策の一部など特定の費目を除き、前年度当初予算を1割以上削減した額を「概算要求枠」とし、これとは別に「元気な日本復活特別要望枠」(以下、「特別要望枠」という)を設けるという二本立ての枠組みから成り、この「特別要望枠」について政府は、予算編成過程の透明化を進めて国民の声を予算編成に反映させる試みとの趣旨から、政策の優先順位付け(「政策コンテスト」)を実施するとしています。具体的には、パブリックコメント(意見公募)に寄せられた意見を参考に、「評価会議(仮称)」において「特別要望枠」での要求を取捨選択し、その決定に基づいて最終的には総理大臣の判断で予算の配分を決めるというものです。こうしたことから、2011 年度予算の概算要求は、従来と大きく異なる内容・枠組みとなっています。

文科省が8月30 日に発表した2011 年度予算の概算要求では、「概算要求枠」で2010 年度予算比6206 億円減(11.1%減)の4 兆9720 億円、「特別要望枠」で8628 億円を計上し、対前年度比4.3%の増額要求となっています。私立大学等経常費補助の総額は、前年度の3221 億円8200 万円に対して107 億5000 万円増の3329 億3200 万円(3.34%増)とされ、大幅増額へ向けた貴重な一歩として評価できます。しかし、この私大経常費補助を枠組みでみると、「概算要求枠」で2816 億3200 万円、「特別要望枠」で513 億円の要求となっています。各省庁の「特別要望枠」での要求総額は約2.9 兆円に達しており、政府は「特別要望枠」について総額で「1 兆円を相当程度超える額」にまとめる方針としているため、「特別要望枠」での要求額が満額実現されることなくしては、私大経常費補助は増額どころか、再び減額となりかねません。

東京私大教連中央執行委員会は、文科省の2011 年度予算の概算要求のうち私立大学・短期大学に関する主な事項について、以下のとおり実現するよう強く求めます。

1.私立大学等経常費補助について、一般補助を軸に対前年度108 億円増額で計上したことを評価し、満額実現するよう求めます。

私立大学等経常費補助の概算要求は、一般補助が対前年度比696 億6400 万円増の2816 億3200万円(32.9%増)、特別補助が対前年度589 億1400 万円減の513 億円です。これは、「従来の特別補助の対象となっていた取組のうち、共通的な取組として一般化した活動についても支援を行う」として、特別補助から一般補助への大幅な移し替えを行ったものです。依然として不十分な額ではありますが、基盤的経費拡充のための一般補助を軸に経常費補助を充実させる政策への転換を図った措置として、私たちはこれを大いに評価するものです。

ただし、「概算要求枠」と「特別補助枠」の内訳でみると、一般補助が「概算要求枠」、特別補助は「特別要求枠」での要求です。特別補助が455 億円のうち108 億円以上削られることになれば、経常費補助総額はまたもや減額という憂慮すべき事態に陥ることになります。

1975 年に私立学校振興助成法が成立した際、私立大学への経常費補助を「できるだけ速やかに二分の一とするよう努めること」との国会附帯決議が採択されているにもかかわらず、政府はこれまで長期にわたって私立大学等経常費補助の実質的削減を続けてきました。私立大学等の経常的経費支出に対する補助割合は最高時の29.5%(1980 年度)から10.9%(2008 年度)にまで引き下げられ、とりわけ自公政権による「骨太方針2006」方針のもとで、2007 年度から2009 年度の3年間には約95 億円も削減されました。経常費補助の抑制・削減は、主として一般補助を漸減させることで行われ、一般補助はピークであった1981 年度の2754 億円から2009 年度の2116億円へと638 億円も削減されてきました。削減額は1 校当たり平均1.4 億円、学生1 人当たり平均7 万円に上ります。

私立大学も国立大学も等しく高等教育機関であり、私立・国立という設置形態に本質的な区別はありません。大学生の75%を受け入れている私立大学への補助は国立大学に比してあまりに乏しく、国の補助を学生一人あたりに換算した額は、国立大学生188 万円に対して私立大学生は14万円であり、実に13 倍以上の格差が生じています。

私立大学への公財政支出の貧困さにより、私大学費は国立大学の1.6 倍もの高額となり、世界的に類を見ないほど過重な学費負担が、憲法に保障された教育の機会均等を根底から脅かしています。また、教員一人あたりの学生数は国立大学の3倍近い27.4 人であるなど、教育環境の整備も遅れ、私立大学の教育・研究条件は劣悪なまま放置されています。

私たちは政府に対し、私立大学経常費補助を満額実現することを強く求めます。

2.特別補助(特別要望枠)のうち、「『強い人材』育成のための大学の機能強化イニシアティブ」事業に計上されている455 億円については、満額実現することはもとより、私大関係者の意見を十分に聞いた上で基盤的経費の拡充に資する予算として実施することを求めます。

特別補助513 億円は、すべて「特別要望枠」での要求であり、「政策コンテスト」の対象となっています。

513 億円のうち455 億円は、「『強い人材』育成のための大学の機能強化イニシアティブ」という名称の事業で一括されたうちの、「大学の教育研究基盤の強化…成長の土台となる教育研究基盤強化事業」の一部として計上されています。

そもそも特別補助は一般補助に準じて私立大学等の基盤的経費に資するためのものであり、「政策コンテスト」になじむものではありません。「教育研究基盤の強化」を謳うのであればなおさらです。「査定」によって削減することなく、満額を確保するよう強く求めます。

また、この特別補助に関する文科省作成の説明資料では、「新成長戦略を踏まえ、私立大学のマネジメント改革を伴った組織的な取組の定着を図る」等を趣旨に、「成長分野で雇用に結びつく人材の育成」、「社会人学生の組織的な受入れへの支援」、「質の高い外国人教職員・学生の組織的な受入れ等」、「大学ガバナンス強化支援」の5項目が掲げられています。それぞれの内容については、「大学ガバナンス強化支援」では、例として「社会ニーズに対応したカリキュラム改革につながるFD、SD の実施」、「経営・教学連携委員会の設置運営、外部理事の複数化」、「経営改善計画の策定」と記されているのみであり、具体的内容がまったく不透明であるため、現時点において判断できるものではありません。

したがって、満額を措置するとともに、特別補助の内容等について詳細を提示し、実施にあたっては私立大学関係者から十分に意見を聴く機会を確保することを求めます。

3.特別補助(特別要望枠)のうち、「授業料減免や学生の経済的支援体制等の充実」58 億円については、少なくとも満額実現することを求めます。ただし、私立大学生への差別的な取り扱いをやめ、格差を抜本的に是正する方向で実現することを求めます。

私大経常費補助の特別補助513 億円のうち、2で触れた以外の58 億円は、「授業料減免や学生の経済的支援体制等の充実」に関するものです。これも「特別要望枠」です。

「高等教育への支出は家計負担が50%を超えており、経済的な理由により大学進学や入学後の修学の継続を断念するなどの例が顕在化」していることを捉え、「学生が経済的な理由により学業を断念することのないよう、教育費負担軽減が急務」として、「各大学がさらなる授業料減免の拡大等を図れるよう、所要の財源・対応を国が支援し、学生の経済状況や居住地域に左右されない進学機会を確保」することが重要であると打ち出したことは、評価できます。

しかし、経済的理由により、希望するすべての国民が高等教育を受けることが実現されていない状況にあって、憲法が保障する教育の機会均等を実現するための施策のひとつであるこの予算措置が、「政策コンテスト」で査定にかけられることはじつに遺憾です。

なにより、「授業料減免や学生の経済的支援体制等の充実」の総額では312 億円が計上されていますが、国立大学の254 億円(対年度比58 億円増)に対して私立大学が58 億円(対前年度比18 億円増)という、大きな格差をつけた予算計上としていることは重大な問題です。

文科省作成の説明資料では、免除率(免除者数)の引き上げ目標について、私立大学は約1.5%(約3.3 万人)から約2.0%(約4.1 万人)へ、今後3 年間で対象学生数を6.4 万人へ倍増するという目標に留まっているのに対し、国立大は約6.3%(約3.7 万人)から約8.4%(約4.8 万人)へ、今後3 年間で過去最大水準の12.5%まで段階的に引き上げるとしています。2010 年度予算における学生一人あたりの補助(交付)額でみても、私立大学が約12 万円であるのに対し、国立大学は約53 万円です。したがって、この概算要求は現状の格差をいっそう拡大させることにつながります。文科省作成の別の資料(「学習者の視点に立った総合的な学び支援及び『新しい公共』の担い手育成プログラム」との見出しがついたポンチ絵)において、当該予算の私立大学の項の説明として「国公私間、地域間格差の改善・充実」と明記されていることにも完全に矛盾します。

私立・国立を問わず、同じ大学生であり、なおかつ国立大学に比して高額な授業料負担を強いられている私立大学生が、学費負担の軽減施策においてこうした甚大な格差の下に置かれなければならないことに合理的な理由はありません。学校数の約82%を占め、学生数の約75%を受け入れ、進学機会の確保を担っているのは私立大学・短期大学です。

私立・国立間格差をさらに拡大させる要望となっていることに抗議し、抜本的な格差是正策を講じるよう強く求めます。

4.「無利子奨学金の大幅拡大」を評価し、満額実現を求めます。また、無利子奨学金の採用枠の配分について、私立と国立の格差を解消する方向で実施するよう求めます。

奨学金制度について、概算要求は「無利子奨学金の大幅拡大」として897 億円(対前年度比194億円増)を計上しています。貸与基準を満たしながら貸与を受けられない「残存適格者の解消」(学部段階2.3 万人増、大学院段階0.3 万人増)、「学力基準の緩和」(5カ年計画の1年目として0.65 万人増)などの目標を立て、貸与人員を34.9 万人から38.6 万人へ、前年度増員数の約8倍となる3.7 万人を増やすとしています。

1998 年度以降、政府は無利子奨学金を「根幹」とするという原則を無視し、無利子奨学金を抑制して有利子奨学金を急激に拡大する政策を実施してきました。その結果、学生が多額の借金を抱えて卒業し、就職難、低賃金・不安定雇用のもとで返済もままならず生活難に陥る事態が進行しています。また、卒業後の返済の不安から奨学金を申請せずに、学費は親が借金で工面し、学生は生活費を得るために日々アルバイトに追われて学業に支障をきたす状況が深刻化しています。

私たちは、給付制奨学金の創設とともに、当面は無利子奨学金を大幅に拡充することを求めてきました。概算要求がこれまでの政策を改め、無利子奨学金を拡大する方向へ足をふみだしたことは評価できますが、3と同様、これはそもそも「政策コンテスト」になじまない政策です。少なくとも満額を実現することを強く要求するものです。

また、無利子奨学金の採用枠の配分についても、国立大学に厚く、私立大学に薄いという大きな格差が存在しています。2007 年度実績では学生数に占める無利子奨学金受給者数の割合は、私立8.0%に対し国立14.8%となっており、国立大学に偏って配分されているのが実態です。この格差を解消するためにも、無利子奨学金の拡大枠を公平に振り分けるよう求めます。

以上

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