コラム中日春秋『中日新聞』 2010年10月20日付

『中日新聞』中日春秋 2010年10月20日付

 たとえば「真夏の女王」の異名もある、こと座のベガは、地球から二十五光年の距離にある。つまり、今、私たちが見るベガの輝きは、今の輝きではない。二十五年前に星が発した光ということになる

▼少し、それと重なる気がするのが、ここ十年ほど増えている日本人のノーベル賞受賞者のこと。名古屋大の渡辺芳人副学長が語っていたように、多くの受賞者が評価されているのは「二十~三十年前の研究実績」だからだ

▼逆にいうなら、将来、ノーベル賞などの形で輝くには、今、光を発していなければならないわけだが、研究環境の現況はお寒いらしい。国立大学の独立行政法人化以降、国が出す運営費交付金も六年連続で減っている

▼貧すればナントカなのか、日本の学術論文数も二〇〇四年ごろから減り始め、〇六年には中国に抜かれた。独立行政法人化後、すぐに成果が見えるような研究を求められる傾向が強まったともいわれる

▼わが国の財政厳しく、無駄の削減が必要なのはその通り。しかし、この資源のない国の来し方を顧みれば、何が、守らねばならない日本の「強み」かは明白。科学研究費は未来への投資、という言い方がこれほどぴったりくる国もない

▼「ノーベル賞はいい。特に化学とか物理とかは」と語った理科系首相の手腕に期待しよう。日本という星が未来の夜空でも輝いていられるように。

 

Proudly powered by WordPress   Premium Style Theme by www.gopiplus.com