世界大学ランキングの波紋広がる『朝日新聞』2010年10月27日付

『朝日新聞』2010年10月27日付

世界大学ランキングの波紋広がる

 今年9月に発表されたタイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の世界大学ランキングが日本の大学に波紋を広げている。昨年までQSと提携していたTHEは今回、相手をトムソン・ロイターに切り替えて、新基準でランキングを発表した。基準が変われば、順位も変わるのは当たり前だが、日本の大学にとっては、200位以内の大学が11から5に半減し、中国本土の6大学に抜かれ、厳しい結果となった。おおむね表面的には平静を保っているようだが、無視を決め込む、または愚痴をもらす大学もあり、そう単純でもない。

 THEのランキングでは、東大26位(昨年の基準による順位、22位)、京大57位(25位)、東工大112位(55位)、阪大130位(43位)、東北大132位(97位)となったほか、名大(92位)、九大(155位)、筑波大(174位)、北大(171位)、慶大(142位)、早大(148位)は200位以内に入らなかった。

 昨年の指標は6項目だったのに対して、今回は13項目に細分化された。このうち、それまで含まれなかった財政収入が4項目にわたり横断的に加えられ全体の約1割をしめている。また、論文引用の項目が調整されて、20%から32・5%にウェイトが増えたのが特徴となっている。

 東大の関係者は「複数の指標を総合化して単一の序列とする総合ランキングは恣意性を排除できない。多様で複雑な知の共同体を評価する方法として極めて不適切。順位自体は無意味と考えており、参考情報ともしていない。算出する方法が大幅に異なっている以上、順位変動に関して評することも無意味」と話す。

 東工大は分析結果を幹部が記者らに伝えた。「たかがランキング、されどランキングだが、大学の本質を左右されては困る。THEは指標の中身を変えている。合理的な日本の指標をつくればどうか」と話し、昨年との順位比較に意味がないことや工学系にとっては不利な指標に変わったことを強調した。

 10月15日の文部科学省・中央教育審議会大学規模経営部会。配られた資料にもTHEの分析結果が盛り込まれていた。順位変化について「大学の実力が直ちに変化したことを意味しない」としている。しかし、「THEは、各国の大学への公財政支出への重視や、アジアでの中国・香港・台湾・韓国の躍進を取り上げつつ、日本の存在感の低下に言及し、『大学の国際化がうまくいかなければ、長期的には問題になる懸念がある』旨の識者のコメントを掲載している」とも資料に書き込んでいる。指標が変わったものの、日本の大学への公財政支出が先進国のなかでもGDP比で低いことや国際化への対応の遅れについては無視できないことを示唆している。

 日本の大学では、旧帝大に東工大、筑波大、慶大、早大を加えた11大学がリサーチ・ユニバーシティー11(RU11)というグループをつくっている。大学の関係者によると、先日のその会合で、THEの結果が分析されたという。それによると、日本は論文生産が横ばいだが、世界の論文数が増加する中で、日本の論文シェアは減少傾向にあり、中国は論文数が年3割増加しているとして、論文引用の比重の増加にともないこの評価が低いと総合評価も厳しくなるとの意見があった。また、論文引用の評価方法が十分に開示されていないことへの不満も出た。論文引用の項目では、東大が158位なのに、エジプトのアレクサンドリア大が4位、トルコのビルケント大が19位というのは説明不可能などと例があげられたという。また、研究と教育は違う評価なのに、異常なほど相関が高く、違う指標として評価されていないという指摘もあった。大学院の修士課程の評価が含まれていないのも日本に不利になったとの見方もあった。

 世界大学ランキングとのつきあい方は難しい。上位なら大学の宣伝に使うことは可能だが、そうでなければ当然、不満や批判も出る。そもそも大学の実態とランキングの評価が一致することもありえない。一側面を「指標」という客観的にみえる基準で見て、事業としてランキングしているにすぎない。当然、英語圏と日本語を使う大学では論文などでは不利になる。一方で、政府の財政投入の規模や意欲が順位に反映する面も出ている。結局、大学が主体的にランキングの断面をもとに分析と戦略をたてるための材料にはいいが、振り回されると無残になる。

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