東京大学、危機に立つ財政 明日はどうなる『朝日新聞』2010年10月19日付

『朝日新聞』2010年10月19日付

東京大学、危機に立つ財政 明日はどうなる

 東京大学が10月12日、安田講堂で、教職員や学生を対象に、東大の今後の教育研究方針や財政状況について説明した。100人を超える人が参加した。なかでも、財政状況については、「明日の東京大学 危機に立つ財政」というタイトル。緊張感のある内容になった。

 今回の説明会は、政府の来年度予算編成の概算要求のひずみが反映されているものとなった。税収、歳入不足から、各省庁とも一律マイナス10%というシーリングがかかったものの、さらにそれよりも深く減らせばその分だけは3倍まで増やして要望・要求してもよいという変則的な要求システムが設定されている。文部科学省はこの要望のシステムをめいっぱい使っている。この増額要望分は、政府の政策コンテストでの評価が認められるかどうかの有力な材料になるといわれている。

 財政の説明では、東大の前田正史・副学長理事(財務担当)が政府全体の危機的な財政状況から話した。公債残高が一般会計税収の約17年分に相当すること(2010年末)や歳入や歳出の状況を例示した。高等教育に対する公的支出の状況の乏しさから、日本は私費負担が先進国のなかでも韓国と並んで高く、公的支出が低いことをグラフで説明した。

 そのマクロの状況で、東大はどうなっているのか。福田理事の説明によると、政府からの運営費交付金が05年度に955億円だったのに対してどんどん下がり、10年度では857億円になっている。経費の削減も合わせて進め、この4年間で28億円を節約したという。一方で、施設の更新などは手つかずで、説明では、築後30年を超える建物は約70万平米で全体の45%にのぼり、年平均4・8万平米の老朽施設の補修のために年150億円が必要になるという。

 さらに、仮に運営費交付金が1割削減で、マイナス85億円になったとすればどうなるか。東大側が影響を試算すると、8学部・研究科の年間の運営経費にあたる▽11研究所の運営経費にあたる▽教員の約3割減に相当する▽付属病院の廃止に見合う▽学部学生の授業料をいまの年間54万円から114万円に増やさないと埋められない、ということになった。これは東大といえども財政の減額についてはかなりの危機感をもった表れだといえる。

 これに先立ち、浜田純一総長は冒頭、「今年度も来年度も財政は危機的な状況にある。フランクな話をしたほうがいい。危機意識をもって、東大の一員として何をやっていくかしっかりと認識してほしい」と述べた。さらに、15年までに東大が目指す将来構想「行動シナリオ」の具体化について紹介した。

 2人の話のあと、質疑応答に移った。なかでも学生からは率直な質問が出された。

 「財政の危機的な状況で、学費の値上げでまかなう気はありますか」(学部1年)

 「10%授業料をあげるだけでは済まない。教育の機会均等ということを考えると、優秀な頭脳には対策も用意しなければならない」(前田理事)

 「財政が足らないから授業料を上げるということにはならない。授業料減免や免除の大きな枠の中で考えなければならない」(浜田総長)

 「厳しい財政のなかで、お金のかかる将来構想をどう実現するのか」(博士課程院生)

 「東大はやるべきことはやる。社会、日本が支える力がないわけではない。よいお金が回るサイクルを絶やさないようにしたい」(浜田総長)

 ほかにも多くの参加者から質問があり、財政への質問が中心に出された。

 東大がこうした財政状況について丁寧な説明をしたのは異例のことで、高等教育に予算的なしわ寄せが出ていることを示していることが改めてよくわかった。

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