「早すぎる就活」是正論 商社団体「学業の妨げ」 / 他業界は「出遅れ」懸念『読売新聞』2010年10月17日付

『読売新聞』2010年10月17日付

「早すぎる就活」是正論
商社団体「学業の妨げ」 / 他業界は「出遅れ」懸念

 2012年春に卒業する大学3年生の就職活動がスタートした。始動時期が早すぎて学生の勉強に支障が出るとの指摘もあり、三菱商事などの商社各社が加盟する日本貿易会は、13年春に卒業する現在の2年生から採用活動を4か月ほど遅らせる方針を決めた。

 ただ企業側には出遅れると、優秀な学生を他社に奪われるとの懸念も根強く、産業界全体に広がるかは不透明だ。

 ■足並み

 「採用活動の早期化が学業を妨げている」

 日本貿易会の槍田松瑩(うつだしょうえい)会長(三井物産会長)は、採用活動を遅らせる理由をこう説明する。4年生の4月に行っている採用面接などを8月以降に遅らせる。

 米国などに留学していた学生の多くが帰国する4年生の夏に採用活動を遅らせれば、「海外経験を持つ学生を多く獲得できる」との思惑もある。

 ただ、採用活動を遅らせることに他業界は消極的だ。「4年生は夏以降も実験や卒業論文の作成で忙しい」(三菱マテリアル)、「遅くても採用できるのは、学生に人気が高い一部の業種だけ」(化学大手)といった声が出ている。

 外資系企業との採用競争も激化している。製薬業界は、医療情報担当者(MR)の採用を巡り、「早く採用活動を始める外資系に優秀な学生を奪われる」(国内製薬大手)と懸念する。金融分野でも、高額の初任給や報酬を提示して、早期獲得に動く外資系証券もある。

 日本貿易会は、他の業界も採用活動を遅らせるよう日本経団連に申し入れた。だが、経団連は「様々な事情を抱えた産業界全体に広げるのは簡単ではない」(幹部)とし、様子見の構えだ。米倉弘昌会長も「本当に難しい問題だ」と話す。

 「チャンス減る」

 ■就活長期化
 「就職活動をもう1年続けるため、留年することにした」

 一橋大4年の女子学生は、3年生の夏に損保会社でインターンシップ(就業体験)を経験したのを手始めに、商社や金融など約30社を受けたが、内定を得られなかった。

 企業が採用活動を遅らせる動きについては、「受けられる企業の数が減り、就職のチャンスが失われる」と警戒する。大学や文部科学省が「就職活動の早期化には歯止めが必要」(日本私立大学連盟)などとして、基本的に歓迎しているのとは対照的だ。

 企業側からも「多くの業種が一斉に遅らせなければ、かえって学生の就職活動の長期化を招く」(不動産大手)との見方も出ている。大卒3年内は「新卒」扱い…就職戦線激化も

 ■戸惑い

 政府は8月、卒業後3年以内の既卒者を新卒枠で採用した企業に奨励金を支給する「新卒者支援策」を打ち出した。今春の大卒の就職内定率は91・8%と過去2番目に低い水準で、新卒者の就職難が著しいからだ。

 企業側も「その年に就職機会を失った新卒者が、非正規社員の道しかないのは不幸な話」(経済同友会の桜井正光代表幹事)として、前向きに取り組む姿勢だ。

 ただ「既卒者」の募集に関する定義がなく、「ほかの企業に就職している既卒者も認めるのか。無職の既卒者と同じ条件で選考していいのか」(不動産)といった疑問を持つ企業は多い。「一気に膨らむ志望者に対応する採用体制づくりも不可欠」(商社)で、政府や経済界は早期に一定の指針を示す必要がある。

 既卒者も、最大3年間の期間を有意義に過ごさなければ、企業は決して門戸を開かない。「外国の大学への留学や、青年海外協力隊に参加するなど、学生も努力が必要」(日本経団連の米倉会長)との指摘は多い。

 入社後3年間で退社する新卒者は3割にのぼり、頭を痛めた企業側が選考基準を厳しくする傾向も強まっている。

 就職予備校「内定塾」の柳田将司氏は、「結論から話すといったビジネスに必要な意思疎通の能力などを身につけなければ、企業にとって魅力的な存在に映らない」と指摘し、学生側の意識改革を訴える。

 ただ卒業後3年以内を新卒とみなしても、企業が採用を増やさなければ、新卒者は既卒者が加わった厳しい競争にさらされる。「新制度の導入は、就職戦線に大きな影響を及ぼす」(就職サイト「リクナビ」の岡崎仁美編集長)可能性がありそうだ。(経済部 山本正実)

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