教員の資質向上 中教審は腰据えた論議を『西日本新聞』社説2010年7月25日付

『西日本新聞』社説2010年7月25日付

教員の資質向上 中教審は腰据えた論議を

「教員の資質向上」をテーマに、教員免許制度や教員養成のあり方をめぐる論議が中央教育審議会で始まった。

昨年の政権交代で民主党政権が誕生しながら、議論が止まっていた問題である。川端達夫文部科学相の諮問を受け、中教審は6月末に特別部会を設けた。単なる制度見直しにとどめず、「いい先生を育てるには、どうすればいいのか」という骨太の論議を深めてもらいたい。

民主党は昨年夏の衆院選政権公約などで、教員免許制度を抜本的に見直し、養成課程を大学4年と大学院(修士)2年の計6年間にすることを打ち出した。8年の現場経験後、教職大学院で単位を取れば、一般免許状より高い専門免許状を与えるという構想も示している。

これが審議のたたき台になるとみられるが、ここで2点指摘しておきたい。

まず、教員の力量アップはこれまでも議論されてきたということだ。当の中教審が2006年に答申をまとめ、それに基づき、2年前に中堅教員を養成する教職大学院が創設され、時代の変化に対応するとして昨年、10年ごとの教員免許更新制が導入された。いずれもスタートして間がない制度だけに、議論次第では教育界が混乱することも予想される。

とくに、教員免許更新制をどうするかは緊急を要する。民主党が抜本見直しを掲げ、廃止が既定路線と受け止められているが、現時点では講習を受けて教員免許が更新されないと、免許を失う。

すでに受講料を払って更新した教員もいる。制度がどうなるかは教員の身分に直結するのはもちろん、講習を実施する大学の体制にも影響する。文科省には、大学で講習を受ける仕組みは残して、それを専門免許状の取得に生かす案があるようだが、早急に結論を出すべきだ。

もう一つは、教員としての資質・能力を養ううえで、大学や大学院での専門的な知識・技能の習得と、教育現場経験のバランスをどう取るのか-である。

文科相の諮問は「学校現場の抱える課題」として、いじめや不登校など生徒指導上の問題▽特別支援教育の充実▽外国人児童生徒への対応▽学力向上▽家庭・地域との連携-など幅広く例示し、これらに対処するため、より高い専門性を教員に求めている。だから、教員資格を修士レベルに上げる、という流れだ。

これには多くの疑問が付きまとう。そもそも、修士という高学歴が直ちに高い専門性に結び付くのか。多様な課題に大学院教育が本当に対応できるのか。教員養成期間が長くなり、資格取得のハードルが上がれば人材が集まりにくくならないか、という懸念も当然出てこよう。 「現場が教員を鍛える」という言葉がある。学んだ理論や知識、技能も現場での研鑚(けんさん)や実践があってこそ生きる。

要は、子どものために教員養成はどうあるべきかである。国だけでなく大学、教育委員会の役割もあろう。免許更新制とは別に、腰を据えた論議が必要だ。

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