【教育動向】「大学の向こう側」実感させる教育を 中教審が報告『産経新聞』2010年6月28日付

『産経新聞』2010年6月28日付

【教育動向】「大学の向こう側」実感させる教育を 中教審が報告

文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会の「キャリア教育・職業教育特別部会」は、第二次審議経過報告をまとめました。キャリア教育の視点から、小学校から大学までの教育を見直すよう提言したこの報告の中で、同部会が特に見直しを求めているのが、高校教育、それも普通科の教育です。

同部会は、キャリア教育を重視する理由として、雇用形態の変化による非正規雇用者の増加、フリーターやニートの増加、就職後3年以内で会社を辞める早期離職率の上昇などを挙げるとともに、非正規雇用者の増加や、企業の人材育成費の縮小などで、「企業が人材育成を行う余裕を失っている」と指摘しています。このため、若者や子どもたちを学校から社会へ円滑に移行させるため、学校における体系的なキャリア教育が緊急の課題である、というのが、同部会の見解です。

報告の中で特に重視しているのが、高校教育の見直しです。実質的な大学全入時代を迎えるなかで、高校、特に普通科は、大学への「通過点」になってしまっているとして、「キャリア形成に共通して必要な能力・態度」の育成等を後期中等教育(高校)修了までの目標とするよう提言しました。大学などの高等教育機関に進学すれば、社会に出るのはまだ先のはずですが、報告は、「大学等の向こうにある社会」を高校生に意識させることで、大学進学後の学習意欲や自立心が生まれる、と強調しています。

具体的には、▽社会人・職業人として自立するため、どんな能力や態度をどれだけ身に付けるかという到達目標を高校ごとに設定すること▽就業体験など体験的学習を充実させること▽コミュニケーション能力などキャリア形成に必要な力を各教科・科目を通じて身に付けさせること▽高校の進路指導の在り方をキャリア教育の観点から見直すこと--などを提言しています。また、これらをより実効性あるものにするため、高校においてキャリア教育を中心的に学ぶ時間を創設することを検討するよう求めています。

ただ、多くの保護者や学校関係者にとって、「キャリア教育の充実」と言われても、あまりピンと来ない、というのが本音でしょう。ここで注目されるのは、同部会がこれまでのキャリア教育を、「進路を選択すること」や「勤労観・職業観の育成」に重点が置かれ過ぎていた、と批判したうえで、改めてキャリア教育を「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることをとおして、キャリア発展を促す教育」と定義し直し、具体的に育成すべき力として、(1)人間関係形成・社会形成能力(2)自己理解・自己管理能力(3)課題対応能力(4)キャリアプラニング能力、の4つを挙げていることです。

言い換えれば、進学や就職などの進路に関係なく、コミュニケーション能力など社会人・職業人として生きるために必要な力を、高校卒業までにすべての子どもたちに身に付けさせるようにしよう、というのが、同部会の提言の趣旨だと言えるでしょう。

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