仕分けで浮き彫り 司令塔なき科学政策 『日本経済新聞』社説 2010年4月29日付

『日本経済新聞』社説 2010年4月29日付

仕分けで浮き彫り 司令塔なき科学政策

行政刷新会議は、研究開発にかかわる独立行政法人を対象に事業仕分けを実施し、ムダな業務や不透明な事業委託契約を洗い出した。

科学技術は経済成長の源泉である。技術や科学の発展には、国の予算を効率よく使うことが大切だ。

研究開発のための独法はいま38ある。仕分けでは、重複している研究をまとめ、無駄な仕事をやめるなど、広い視野で科学技術政策の効率性を問うことが求められたはずだ。今回はとても手が届かなかった。

政府は科学技術の戦略を決める司令塔を持っていない。ここに最大の問題がある。限りある予算を独法にどう配分し、何に使うのか。戦略も選択基準もないので、事業内容の見直しにはなかなか踏み込めない。皮肉にもそれをあらわにしたのが、今回の仕分けともいえる。

仕分け人は、宇宙航空研究開発機構の広報施設をはじめ効果が疑わしい業務をあぶり出した。独法側も公用車廃止など、お金の使い方をあらかじめ自己点検して臨んだ。

事業仕分けが、独法の運営に健全な緊張感を生んだのはよいことだ。しかし、肝心な作業は、研究の中身の吟味なのではないか。

独法が取り組む研究開発が国の成長戦略の観点から妥当なのか。複数の独法が同じ任務を負い、力が分散していないか。独法のあり方を抜本的に見直すべきなのに、その点では見るべき成果が上がらなかった。

前回は、次世代スーパーコンピューター予算に切り込み、科学技術軽視と世論の批判を受けた。今回はひるみがあるのか、最初から中身の議論を避けていたようにみえる。

研究開発にかかわる独法は、文部科学省や経済産業省などの傘下にある。各省の政策目的に従って、ロケットや新素材の研究をしたり、大学や企業に研究資金を配ったりする。

政策を束ねるのは内閣府の総合科学技術会議であり、その議長は首相だ。長期戦略を決め優先順位付けをする。そんな仕組みだが、現実には各省の利害調整の場になっている。財務省は予算要求前に科学事業を事前査定するのに利用してきた。

この会議には役所の縦割りを変える力はない。官僚の天下り先のお手盛り予算を監視する機能もない。民主党は会議の改組・強化を口にするが、実現していない。

国全体の研究費に占める政府予算の割合では日本は約17%と、米国やドイツ(ともに約28%)より小さい。財政危機のなか、予算には制約がある以上、効果的に使うべきだ。司令塔づくりこそが急務である。

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