《市場化テスト導入阻止情報》No.10=2010年4月23日 内閣府公共サービス改革推進室による4.8文書『国立大学法人の施設管理業務,図書館運営業務等への評価の総括』を批判する 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

 

《市場化テスト導入阻止情報》No.10=2010年4月23日

内閣府公共サービス改革推進室による4.8文書『国立大学法人の施設管理業務,図書館運営業務等への評価の総括』を批判する

国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

はじめに

《市場化テスト導入阻止情報》No.9で紹介したように,4月8日に開催された内閣府の官民競争入札等監理委員会国立大学法人分科会は国立大学への市場化テスト導入を要求した.ここでは総括的文書である,内閣府公共サービス改革推進室(以下,推進室)による『国立大学法人の施設管理業務,図書館運営業務等への評価の総括』(以下,4.8文書)を批判的に検討する.なお,全文は,内閣府の以下のURLを参照されたい.

http://www5.cao.go.jp/koukyo/kouhyou/kokudai/100408-2-1-1.pdf

4.8文書の概要

1.推進室の論理
教育研究活動を進めるに必要な予算確保と職員配置のために市場化テストを導入して経費削減を図ること

2.推進室の具体的要求

(1)施設管理運営業務
1)一般競争入札の拡大
随意契約の見直し,少額随意契約(*)の上限額の引き下げ
*少額随意契約:予定価格(貸借契約の場合は予定賃貸借料)が少額の場合に,二以上の者から見積書を徴取して契約者を決める方式.法令上,予定価格が少額随契可能な額であっても,可能な限り競争入札を行なうように指導されている.
2)契約の複数年度化
3)「官公需についての中小企業者の受注確保に関する法律」(*)の空文化
*中小企業の受注機会の増大を図るための反独占法立法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S41/S41HO097.html
4)エレベーターの点検・保守の随意契約を一般競争入札化
「安全に万全を期さねばならない一部のエレベーター(病院の手術用エレベーターや精密機器等)」以外は一般競争入札を行い,「万が一」に対してはマネジメントのリーダーシップで対処するよう要求

(2)図書館運営業務
1)民間委託拡大:「図書館運営は大学の教育・研究と不可分」とせず,明確な線引き行うべき
2)一般競争入札の導入
3)契約の複数年度化
4)複数の図書館の共通業務一括契約

(3)就職・キャリア支援業務
各大学で行っていることをいっそう拡大

(4)リメディアル教育(*)業務
*大学教育を受けるにあたって不足している基礎学力を補うために行われる教育

鮮明となった市場化テスト導入の狙い

1.導入論としての経費削減:外部委託→低賃金.突破口→橋頭堡としての施設管理
経費削減は導入のための手段であり,真の狙いは2以下

2.大企業による公共サービス市場の強制的創出とその独占
一括調達,複数年度化,少額随意契約上限額引き下げは,中小企業圧殺が真の狙い

3.中小企業への官公需受注機会増大を進める「官公需についての中小企業者の受注確保に関する法律」の破壊
「官公需についての中小企業者の受注確保に関する法律」に基づく「官公需適格組合制度」ならびに毎年度行われる閣議決定「中小企業者に関する国等の契約の方針について」(H21年度は,http://www.meti.go.jp/press/20090612002/20090612002.html)を,内閣府は公然と破壊しようとしている(4.8文書における1(9)).市場化テスト法は「特例」として個別法の一部を停止する構造を有していることに注意.

4.サービス低下,安全軽視,低賃金などで削減された資金を特定領域の教育研究に恣意的に投入

対抗する論理の構築へ

1.現場に適合する合理的な契約制度の維持発展

官庁契約の原則はあくまでも競争入札であり,随意契約は例外である.しかしながら内閣府の「随意契約の可能な金額が拡がると,民間企業と不適切な関係を生じるリスクが増加する」という論理は,現場における契約の実態に適合しない.

第1に,契約において本質的に重要なことは,発注者側がどれだけ受注者側の力量を厳格かつ公正に吟味するかであり,契約すべき内容に応じて随意契約が採用されることを一般的かつ機械的に排除すべきではない.反対に経営能力と職務への誠実さが欠如している場合,一般競争入札が不正を排除できないことは,政治家の介入や談合による多数の例が示している.

第2に,内閣府のいうように少額随意契約の上限額を国並みに100万円にすれば,業務の簡素化・効率化が阻害され,加えて機敏な契約締結が困難になる.人件費削減が続く中で上限額を引き下げれば,契約関係の業務遂行は不可能となろう.内閣府は,いくつかの大学が上限額を1000万円に引き上げたことを口を窮めて批判しているが,実際には随意契約であっても,大学側は情報公開などによって透明性を高める努力を払っている.各大学が設定している現行上限額は維持されるべきである.

2.外部委託に伴う低賃金化の阻止

国立大学にとって市場化テストがあたかもメリットがあるように喧伝されるのは,外部委託によってコストが下がることが期待されるからである.しかしコストが削減されるのは,その業務が非正規雇用による低賃金労働者(「官製ワーキングプア」)によって担われるからである.この構造を変えることが極めて重要である.そのための一方法として公契約法(条例)制定の運動に連帯すべきである(本情報No.8参照).

3.健全な民間企業活動の推進

(1)大企業による公共サービス独占体制阻止

市場化テストの一形態である包括的民間委託は「小規模,単年度,外郭団体主体」から「大規模,長期,民間企業主体」へと変化すると考えられ,大企業が参入しやすい状況が生じている.4.8文書もまさにその流れに沿っており,小泉構造改革以降進んできた公共セクターの市場化,さらには大企業によるその独占化を加速させるものである.

(2)公共事業依存体質の克服

野村総研の調査では,都道府県,市町村の施設・事務・事業サービス市場は約5.4兆円(2012年度)と想定され,民間企業にとってのビジネスチャンスととらえられているが,以下のように公共事業依存体質を懸念する指摘もある.

『民間では,この市場化テストも含めた一連の官業の民間開放に対して,「パブリックビジネス」というマーケットのビジネスチャンス拡大との期待がされている.しかし,こうした捉え方は,かえって「市場化テスト」により民間経済の官業の依存度を高める結果につながりかねず,公共事業依存の民間事業者を生 み出す可能性がある.

現在,デフレ経済から脱却を果たし,新たな経済成長の芽が出てきている中で,民間に求められるのは,「民ができることは民で」という官業依存からの経済的自立である.民間には,市場化テストに対して,マーケットとしてのビジネ スチャンスの拡大への期待ではなく,行政の代行者として公共サービスの効率化と質的向上に寄与する公共の担い手としての気概が求められる.』

瀧口樹良「市場化テストに求められる課題」富士通総研Economic Review(2006年7月)http://jp.fujitsu.com/group/fri/report/economic-review/200607/page11.html

4.大学教職員の専門性の向上

大学における業務は教育研究と不可分であり,その内容も分野によって大きく異なる.専門性の尊重とその増進こそが,効率的でかつ廉価に業務を推進し,サービスを向上させる.

5.大学における教職員・学生・院生さらに市民の要望に基づく改革

市場化テストは,経費削減とサービスの向上の二つの達成を目指すという謳い文句で導入された制度であったが,すでに多くの人々が指摘し,かつまた多数の実例が示すように,真の狙いはサービス切り捨てによる経費削減にある.実際,4.8文書はひたすら経費削減を述べており,サービス向上という観点は端からない.大学構成員や市民の要望に基づく改革でなければ,国立大学の社会的使命を果たしていくことはできない.

6.エレベーター安全管理の徹底

現状は,内閣府も認めるように「大学規模の多数のエレベーターの保守管理を適切に行える業者は(引用者注:保守管理会社)全体の数%」.2009年の国土交通省の実態調査などでも,メーカー系と独立系の保守管理会社の間で技術情報の提供などに関する軋轢が顕在化している.このような現状で一般競争入札を画一的に要求するのは著しく危険である.手術用や精密機器用だけでなくすべてのエレベーターへの安全管理を徹底すべきである.

終わりに

国立大学の将来の方向性は極めて混沌としている.市場化テスト導入は,財務省などが狙っている国立大学の統合再編や地方移管を行う上で必要な国立大学のスリム化(管理費や人件費の削減)のための先兵的役割があると考えられる.

4.8文書において施設管理運営業務については市場化テスト導入が明記されており,ヒアリングの席上でも文部科学省側は講義棟や総合研究棟などの管理については導入を拒否していない.したがって,施設管理運営業務が国立大学への市場化テスト導入の突破口とされる危険性は極めて高い.

一例でも導入されれば,それが既成事実化し,他の業務や他の大学に導入を迫る圧力が高まることは必至である.施設管理運営も含めたすべての業務について,市場化テスト導入反対の運動を強めることが非常に重要になっている.


“公共の幸福のために商売しているというふりをする人々が幸福を大いに増進させたなどという話を聞いたことがない.” アダム・スミス「諸国民の富」より

 

 

 

 

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