大学と地域の連携 互いに学び刺激し合って 『紀伊民報』2010年4月20日付

『紀伊民報』2010年4月20日付

大学と地域の連携 互いに学び刺激し合って

和歌山大学が今年から地域と連携した研究事業を始める。教員や学生が住民やNPO、自治体に協力し、共同で過疎や獣害など地域の課題に取り組む。

研究費として2年間で1500万円を計上、本年度は1~3件を採択する予定だ。教員には現場に足をつけた研究を促し、学生には地域に向き合うきっかけになるという効果を見込んでいる。大学が地域の頭脳となり、住民主体の活動を支援するシンクタンクとしての役割も期待されている。

和歌山大は田辺市上秋津で、地域づくり団体「秋津野塾」とともにマスタープランを作り、長期的な視野で地域づくりの指針を打ち立ててきた。2008年に廃校舎を活用して開業した農業体験宿泊施設「秋津野ガルテン」も、この提案が基になっている。

05年には、紀南の研究拠点として同市新庄町のビッグ・ユー内に「紀南サテライト」を開設。社会人向けの授業や公開講座を開き、学びの場を広げた。田辺市と連携した生涯学習や北山村での地域づくりにも取り組んできた。これらの経験をさらに広げたい。

大学はいま、志望者が定員を下回る「全入学時代」を迎えて、生き残り競争に直面している。経営が破綻(はたん)する学校法人や募集停止に至る大学も出ている。

国立大学は04年に独立法人化され、教育力と競争力が試される時代に入った。研究や教育などを6年間で評価し、予算の一部に差をつける制度も導入された。ところが、先日発表された文部科学省の評価では、和歌山大は86位中ビリから2番目、85位だった。

県内でも和歌山大の評価はそんなに高くはない。県の08年の統計によると、大学進学に際して県外へ出る高校生の割合は87・6%。全国平均の55・0%を大きく上回り、全国トップである。

このような現実にどう向き合うのか。社会連携を担当する堀内秀雄副学長は「和歌山という地域が疲弊している時に大学だけが発展することはありえない」と指摘。「和歌山の課題は日本が抱える問題の縮図であり、それは世界につながる。地域に五感を研ぎ澄まさなければ世界に役立つ教育と研究はできない」と、地域に目を向けた学びの大切さをいう。

「地域に五感を研ぎ澄ます」方策として和歌山大は、知的資源を生かす仕組みづくりに取り組んでいる。今回の事業はその一つであり、さらには「地域創造支援機構」や「教育学生支援機構」を発足させる。学生や教職員らが大学の在り方を考える「研究集会」の開催も計画している。

過疎、高齢化が深刻な紀南地域では、崩壊が迫っている集落も少なくない。生き残りという意味では大学と同じである。そういう地域に目を向け、五感を研ぎ澄まそうという試みを歓迎し、応援したい。大学と地域が連携して、光明を見つけようという事業を盛り立て、軌道に乗せたい。

この活動をきっかけに、地域で働く意味を見いだす学生が増えてくれば、地域に刺激が生まれ、人材の流出も防げるだろう。大学の頭脳を地域に活用し、ともに発展できる道を探りたい。(S)

 

 

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