長岡技科大に「原子力安全工学」 温暖化で原発見直し 「世界中で活躍する人材育成」 『読売新聞』新潟版2010年4月20日付

『読売新聞』新潟版2010年4月20日付

長岡技科大に「原子力安全工学」
温暖化で原発見直し 「世界中で活躍する人材育成」

長岡技術科学大(長岡市)が「原子力安全工学」技術者養成のため、2012年度に大学院の専攻を、さらに早ければ14年度に学部の課程を、それぞれ設置する。東京電力柏崎刈羽原子力発電所などへの技術者供給や、原発による地域産業活性化につなげる狙いもある。背景には、温室効果ガスを出さない原子力発電が近年見直され、世界中で新設が見込まれる一方、人材育成が遅れている現状がある。

(北條豊)

◆追い風

「原発が地元にある大学として、原子力の専攻や課程の設置に取り組むべきだ」。新原晧一学長は今年1月6日、全教職員の前でそう宣言し、翌週には、日本原子力研究開発機構(茨城県)を自ら訪ね、協力の約束を取り付けた。

県内の大学には原子力技術者の養成課程がなく、全国でも「原子力」関係の学部学科は、国内外の事故の影響もあって、一時受験生から敬遠されて廃止や改組が相次いだ。だが、地球温暖化問題により状況が一変。文部科学省によると、04年度には「原子」がつく学部学科を持つ大学はゼロで、4大学院で専攻が残るだけだったが、今年4月現在、福井工大など3大学に学科、東大、福井大などに計7の大学院専攻がある。

3月に発表された国の「エネルギー基本計画」骨子案では、原発を「我が国の中長期的な基幹電源」と位置づけ、地震の影響などで7割に達していない稼働率の向上と、20年までの原発8基増設などを打ち出している。「はっきり追い風」(長岡技科大)の状況だ。

◆不信解消へ

とはいえ、柏崎刈羽原発の中越沖地震(07年)被災や、東電の原発トラブル隠しやデータ改ざんなどの問題もあり、市民の原発に対する不信感は根強い。

新原学長らは、方針決定に先だって県や地元自治体、商工団体などに意見を聞いたほか、1月末には柏崎市での講演会で人材育成にむけた説明も実施。参加者のアンケートでは「地域全体の理解増進につながる」といった好意的な意見も少なくなかったという。

新設される「原子力安全工学」課程や専攻では、「コミュニケーション能力を兼備した」技術者の育成を目指す。東電問題を教訓にした形だ。

◆産業振興

もう一つ、大学側が狙うのが、原発を中心とした「地域で持続的に活躍出来る中小企業群」の形成だ。

参考とするのが、関西電力美浜原発などがある福井県。エネルギー研究開発拠点化計画などを作成、地域振興策を進める。特産の越前和紙などの商品開発を電力事業者と共同で行い、原発の保守管理などに独自の技量認定制度を導入するなど、地元企業が参入しやすくしている。

一方、本県では、原発を産業振興に結びつける動きはまだ鈍い。高品質が求められる原発部品を地元で請け負えば、「30~40年は安定した収益体質を保つ企業群ができる」(新原学長)。

◆全国の受け皿に

長岡技科大は、09~10年度、文科省の「原子力コア人材育成事業」に参加し、カリキュラム化を検討。全国の高専のうち17校も事業に参加して人材育成を推進しており、長岡技科大はその受け皿にもなる。

教員は日本原子力研究開発機構などからも受け入れ、学生は原子力団体や、柏崎刈羽原発を含めた電力、電気などの企業で研修も行う予定。原発は中国、インドなど海外で新設が計画され、長岡技科大は、「世界中の原発で活躍する人材」の育成を見据えている。

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