東北の国立大病院 法人化以降、患者増やし収入確保 『河北新報』2010年4月11日付

『河北新報』2010年4月11日付

東北の国立大病院 法人化以降、患者増やし収入確保

国立大が法人化された2004年度以降、東北の国立大病院で手術件数や患者受け入れ数の増加が目立っている。国からの運営費交付金が減らされ、自己資金の確保を目指す各大学の「収入源」として病院の役割が高まっているためだ。研究者でもある医師は多忙化し、医療の向上につながる臨床研究に支障を来すなどの問題が生じている。(報道部・菊池春子)

▼交付金は減額

「法人化してから、診療は忙しくなるばかり。国立大病院が本来担うべき医学研究の時間が確保できない」。東北大大学院医学系研究科の教員で、診療現場にも立つ医師は危機感を募らせる。

法人化前は午後3時ごろに終わった診療が、患者数の増加などで午後7時近くまでかかることもしばしば。「研究力の衰退は将来、医療レベルの低下を引き起こしかねない」と懸念する。

法人化を機に、国立大への運営費交付金は毎年数億円単位で減額され、大学はコスト削減と収入増という経営努力を迫られた。収入面で貢献を求められた一つが病院で、東北に四つある国立大病院も増収に努めている。

4病院の診療状況は表の通り、法人化の前後で大きく変わった。手術件数は秋田大を除いて増え、特に東北大は2000件以上の増加。患者の受け入れを増やすため入院患者の平均在院日数は各大学で短縮された。

「医師も不足し、患者の回転率が上がるほど多忙になる」(秋田大)という現状は、臨床研究に悪影響を及ぼしている。国立大学協会の08年度調査では、全国の国立大病院の約8割で医師の研究時間が「減少した」と回答、研究成果を示す論文も減少傾向にある。

各大学によると、08年度の臨床医学系の論文発表は、東北大が111件と04年度(212件)からほぼ半減。秋田大も659件で、法人化前の03年度(816件)に比べて大きく落ち込んだ。

▼「待遇改善を」

医学部の定員増で、教育の比重も増している。忙しさのあまり研究が十分にできず、医師の大学病院離れを招く悪循環も招いている。

打開策となる人員増もままならない。法人化で各大学の人事面の裁量権は増したが、06年施行の行政改革推進法で国立大も5年間で5%の総人件費削減が求められている。診療に当たる教員は他学部の教員と同じ「教育職」と位置付けられ、給与体系も優遇されているわけではない。

国立大学法人は4月、6年ごとに更新される運営指針「中期目標・中期計画」の2期目に入った。経営の効率化が一段と迫られる中、大学病院の本来の機能維持は大きな課題になっている。

文部科学省の「国立大学法人化の検証に関するワーキンググループ」専門委員を務める嘉山孝正前山形大医学部長(現国立がんセンター理事長)は「現業を担う病院に対しても、一律に効率化を求めてきた弊害が噴き出している」と指摘。「大学運営に緊張感が出たという意味で法人化には賛成だが、国立大病院の位置付けや待遇面の改善など根本的な措置がなければ、日本の医療は崩壊しかねない」と訴えている。

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