《市場化テスト導入阻止情報》No.5=2010年3月8日 市場化テスト導入に反対して国大協総会(3月3日)へ要望書 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

《市場化テスト導入阻止情報》No.5=2010年3月8日

国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

市場化テスト導入に反対して国大協総会(3月3日)へ要望書

3月3日に開催された国立大学協会第18回通常総会に対して東京大学職員組合図書館職員部会が要望書
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/kokudaikyo20100302.pdf
を提出しましたので東京大学職員組合の了解を得て以下にご紹介します(機種依存文字は変更してあります)。

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2010年3月3日
国立大学法人学長のみなさまへ

東京大学職員組合図書館職員部会

国立大学図書館業務への「官民競争入札」(市場化テスト)導入の動きに関する要望書

平素より国立大学の発展にご尽力されていることに敬意を表します。

ご存知の通り、内閣府の官民競争入札等監理委員会 公共サービス改革小委員会国立大学法人分科会において、平成22 年6 月の公共サービス改革基本方針(根拠法「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(略称「公共サービス改革法」)(平成18 年法律第51 号))の改定に向け、国立大学の事務(施設の管理運営・図書館業務)が公共サービス見直しの対象分野に上げられ、検討が進められております。2 月には首都圏7 大学(東京、東京医科歯科、東京学芸、東京工業、お茶の水女子、一橋、政策研究大学院)を対象にヒアリングが実施され、また「国立大学法人における公共サービスの改革状況に関する調査について」というアンケート調査が各大学に対して行われました。

私たち東京大学職員組合なかんずく図書館職員部会は、下記に述べるような理由から、「官民競争入札」導入に強く反対しております。つきましては、貴協会に対し緊急に以下のことを要望いたします。

<要望>
1. 国立大学協会として、「官民競争入札」導入に反対の態度表明をしていただきたい。
2. 国立大学図書館への「官民競争入札」導入に反対し、阻止していただきたい。

<理由>

1.業務の側面から

(1) 図書館は大学の心臓である

ジョンズホプキンス大学初代学長D.C.ギルマンが「図書館は大学の心臓である」と言っているように、図書館のあり方は大学の生死にかかわるほどの重大な問題である。図書館業務運営を大学から切り離し、民間に丸投げすることは、大学が自らの心臓を抉り出すに等しい自殺行為である。

(2) 図書館業務に見識も経験もない業者・企業が参入する危険

「官民競争入札」が導入された場合、過去の事例からすると、図書館業務に全く見識も経験の蓄積もない業者・企業なども応札してくる可能性がある。入札額が最優先となる競争入札となれば、必然的にそのような業者に落札されることも考えられる。「わが大学の図書館は、○○株式会社が運営しています。」などと内外に誇れるだろうか。

(3)「官民競争入札」で図書館の質の保持と向上は不可能

「官民競争入札」の目的は、「質の保持と向上」「経費削減」と標榜されているが、その実態は、「質の保持と向上」など眼中にない、行政改革推進法と公共サービス改革法を車の両輪とする「人減らし」にあることは明白である。

大学図書館の使命は「大学の教育研究に貢献すること」である。大学図書館は、各大学の教育研究の特性に寄り添い、その発展と共に「成長する有機体」(S.R.ランガナタン)でなければならない。「成長する有機体」であること、これが大学図書館の「質」を決める。仕様書に基いてマニュアル化された固定的・定型的な内容を本務とする民間委託運営では、教育研究に貢献する高度な「質」を維持することはできない。

図書館サービスの「質の保持と向上」を図るには、人材の確保が不可欠である。現在、国立大学の図書館業務は、専門的なスキルと知識を身につけた図書館職員によって遂行されている。彼らのプロフェッショナルとしてのノウハウは、長年にわたり営々と築き上げられてきたものである。「官民競争入札」導入は、その蓄積と人的財産を手放して、大学図書館を、固有のノウハウの蓄積もなくマニュアル化したサービスしか提供できない図書館にしてしまうことである。そうなれば、後世に図書館としての文化の継承ができなくなり、単なる本が並ぶ箱物としての図書館しか残らなくなってしまうだろう。大学図書館は知的学術的文化遺産を継承する使命を有し、学生はそれらの遺産を享受する権利を有しているが、このことは、その使命と責任を大学が放棄することを意味する。

(4)安い労働力では図書館の質は保持できない。

「図書館員の倫理綱領」(日本図書館協会制定)では、第9条に「組織体の一員として図書館員の自覚がいかに高くても、劣悪な労働条件のもとでは、利用者の要求にこたえる十分な活動ができない」と規定している。図書館の質の保持と向上には、職員に安定した賃金と労働条件が保障されることが不可欠であり、廉価な労働力の導入は、逆に質の低下を招くことになる。

(5)大学の図書館の業務は全てが有機的につながっている。

現在ほとんどの国立大学図書館において、製本業務と夜間カウンター業務が外部委託している業務の主たるものである。製本業務は専門技術や機械を要するため、専門業者に委ねられるべき業務であり、夜間のカウンター業務については、職員の夜間労働や長時間労働を避けるために、昼間と同程度のサービスは提供できないことを前提に外部委託が行われている。このほかに目録業務も一部外部委託されているところが多いが、あくまでも正規職員のマネージメントのもとに定型化できる部分だけの委託であり、専門性の高い職員がいることが、(6)で述べる目録の維持管理を可能にしているのである。選書、発注、受入、目録、閲覧と、図書館業務はすべてが有機的に繋がり連関している。ここから一部の業務を切り離して外部へ投げることは、有機体としての図書館全体を損ない、質の低下を引き起こすことになろう。

(6)「官民競争入札」導入は、全国大学図書館サービス、世界における日本の学術情報サービスの質の低下につながる。

NII(国立情報学研究所)が世界中の利用者に提供しているNACSIS Webcat(日本の大学図書館等が所蔵する図書・雑誌の総合目録データベース)は、全国の国公私立大学図書館が共同で作成している目録データベースであり、現在その質の維持が懸念されている。NACSIS Webcat の維持管理にはプロフェッショナルな図書館職員の確保が必須である。民間業者が受託した場合には、そのような煩雑で利潤を得られない業務が切り捨てられ、NACSIS Webcat の質が低下することは必至である。

日本が世界の学術情報の流通や学術文化の振興に貢献し、国際的な存在感を高めていかなければならない時代に、利益追求を前提とした民間業者・企業への委託は、日本の学術情報資源の劣化を招くものである。

2.雇用と労働条件の側面から

官製ワーキングプアを生み出す危険

「官民競争入札」は、図書館職員の雇用を脅かす重大なおそれがある。国立大学の図書館業務を丸ごと民間業者が落札した場合、考えられる職員の処遇は、配置転換、落札業者による雇用、整理解雇の3 つである。

配置転換は、図書館で働くことを希望して、司書資格を取り、国家公務員採用試験(図書館学)等を経て採用された職員から、蓄積したスキルやノウハウを活かせる職場を奪うことになる。配置転換ならばまだ辛うじて雇用は守られるかもしれないが、「官民競争入札」が「人減らし」の道具として編み出されたものである以上、人件費削減に結びつかない配置転換で済む保証はどこにもない。職員の雇用主体が、国立大学から、より削減効果のある落札業者に切り替わることは容易に想像できる。そうなれば職員の労働条件の低下は必至である。また、次回の落札で業者が変われば、雇用の継続も断たれてしまうし、身分保障は何もなくなる。低コスト化を追求していけば、必然的に人件費切り下げとなって、官製ワーキングプアを生み出す。

3. 国立大学の他の業務への影響

大学崩壊と社会の不安定化に拍車

国立大学図書館業務に「官民競争入札」が入ることにより、これが突破口となって、国立大学の業務に、次々と民間業務委託の雪崩現象が起きる危険がある。このことによって、大学の教育研究支援部門は弱体化し、サービスの質の低下や、大学職員の雇用不安および労働条件の悪化が引き起こされる懸念は大きい。さらに、非正規労働者の増大を助長し、日本社会の不安定化に拍車をかけることにもなるだろう。

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【再掲】

本ネットワーク事務局も国大協に2項目の要望書を提出しました。
http://www.shutoken-net.jp/2010/03/100302_1jimukyoku.html
そのうち市場化テストにかかわる部分を再掲します。

国立大学協会第18回通常総会への要望書

2010年3月2日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

1.大学への市場化テスト導入反対の意思表示を本総会において行うこと

2010年1月19日、内閣府官民競争入札等監理委員会(以下、監理委員会)事務局と内閣府公共サービス改革推進室は、それぞれの参事官の連名で各国立大学財務担当理事あてという異例の方法で「国立大学法人における公共サービスの改革状況に関する調査について」という依頼文書を送付し、国立大学への市場化テスト導入への策動を開始した。その根拠となっているものは、小泉構造改革の一環として2006年に行政改革推進法とともに制定された市場化テスト法(官民競争入札導入法)である。この市場化テスト法こそ公共サービス部門を解体して利潤追求対象に変え、同部門に従事している職員の解雇を可能とする悪法であった。しかるに新政権は市場化テスト法を国の機関、独立行政法人、そして国立大学へも適用させるために、6月までに改革対象事業の選定と公共サービス改革基本方針をとりまとめるとしている。市場化テスト導入は、以下のように国立大学の解体を推し進めるものである。

第1に、経費削減の名の下に支援・サービス領域が教育研究業務から切り離され、利潤追求対象とされることによって大学業務の一体性に楔が打ち込まれる。「テスト」を装ってはいるものの、一度切り離された領域の本体復帰はほとんど不可能であることに留意しなければならない。

第2に、ひとたび内閣府によって対象業務に指定されるならば、市場化テスト法の構造からして全国立大学へ一律適用の危険性がある。しかも市場化テストは監理委員会にコントロールされるので、各国立大学の業務へ国家が容易に介入できる道が開かれることになろう。

第3に、市場化テスト導入部門の職員は定員の枠内で他部門へ配転させられるか、解雇されることになる。これは大学職員の専門性を著しく蹂躙し、教育研究活動の推進に深刻な困難を生み出す。加えて、職員の雇用保証を奪うことは明白である。

このように危険な内実をもつ市場化テスト導入への急速な動きに対して、国立大学図書館協会は2月8日に臨時理事会を開催し、市場化テストに道を開く包括的・複数年度民間委託への批判的視点をはっきりと確認している。本総会が、大学業務を市場化テスト対象とさせないことを全国立大学の総意として確認し、そのことを社会に対して明確に意思表示しておくことが極めて重要であると考える。

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