先端研究支援―視野を広げて見直しを 『朝日新聞』社説 2009年9月28日付

『朝日新聞』社説 2009年9月28日付

先端研究支援―視野を広げて見直しを

総額2700億円という巨額の研究費の行方が注目されている。 

補正予算に盛り込まれた「最先端研究開発支援プログラム」だ。研究者30人に平均90億円ずつ配り、「3~5年で世界のトップをめざす」という。かつてない大胆な研究支援である。 

鳩山新政権の発足を前にした今月初め、麻生前政権がまさに駆け込みで、対象の研究者30人を決めた。 

これに対し、当時、民主党幹事長だった岡田克也氏は「政権発足後に精査の対象にする」と述べた。新政権はいま補正予算見直しを進めており、文部科学省はその執行を止めている。 

独創的な科学技術は、日本の将来にとってきわめて重要だ。ましてや、巨額の予算を振り分けるのだから、公正で、かつ効果的でなくてはならない。

だが、今回の選考はあまりに拙速ではなかったか、という声が学界などからわき上がっている。 

公募期間は3週間で、構想を練る時間は少なかった。600件近い応募に対して、選考期間はわずか1カ月しかなく、専門家の意見を十分に聞くだけの余裕も少なかった。 

この計画はもともと緊急経済対策の一環として提案されたが、法案審議のなかで、先端研究の推進は決して臨時の措置ではないとクギを刺したうえで民主党も賛成し、可決された。 

付帯決議には、件数を30件程度と限定しないこと、難しい課題に挑戦するいわゆるハイリスク研究にも目を向け、分野間のバランスも勘案して適正に資源配分することなどを盛り込んだ。より多様な研究を、より柔軟に支援する狙いといっていい。 

こうした意図は尊重されたといえるだろうか。 

選ばれた30人を見ると、うち11人が東大に集中している。ノーベル賞受賞者など著名な研究者も多く、実績重視の傾向もうかがえる。 

研究の分野や、研究がどの段階まで進んでいるのかによって、必要な費用は大きく異なるし、政府がどこまで支援すべきかも変わってくる。新政権の責任できちんと再点検すべきだ。 

一方、最先端研究を育てるうえで忘れてならないのは、すそ野を広げることだ。若手の自由な発想を生かした研究を進めてこそ、思いもかけないような画期的な成果が生まれてくる。 

オバマ米政権は補正予算で2兆円規模の破格の研究費を計上し、「長期的に基礎研究を育てる」ことに力を入れる。既存の支援計画の予算を増やし、より多くの、とりわけ若い研究者を支援するのもその一つだ。日本も視野を広げ、同様の工夫をしてはどうか。 

独創的な研究は一朝一夕には生まれない。どう育てていくのか。今回の支援事業の進め方は、鳩山政権の科学技術政策の試金石にもなるはずだ。

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