新教育の森:教育にかける公費、乏しさ浮き彫り 重すぎる日本の私費負担 『毎日新聞』2009年9月26日付

『毎日新聞』2009年9月26日付

新教育の森:教育にかける公費、乏しさ浮き彫り 重すぎる日本の私費負担

◇OECDデータ比較

経済協力開発機構(OECD)が「図表で見る教育09年版」を公表した。加盟30カ国の教育に関するさまざまなデータを比較分析したリポートから読み取れる日本の教育の現実とは--。【井上俊樹】

◆対GDP比3.3%

日本の06年の公的財源からの教育支出の対国内総生産(GDP)比は3・3%(OECD平均は4・9%)で、比較可能な28カ国中ワースト2位、大学などの高等教育への支出に限れば0・5%(同1・0%)で最下位、すべての公的支出に占める教育費は9・5%(同13・3%)で27カ国中最下位--。OECDのリポートで改めて浮き彫りになったのは、他のOECD諸国に比べて著しく乏しい公的教育支出の現状だった。

一方で際立っているのが私費負担の重さで、公私合わせたすべての教育支出に占める私費割合は33・3%と、日本と同様に私立大学が大半を占める韓国(41・2%)に次いで2番目に高かった。とりわけ負担が重いのが大学などの高等教育段階で、OECD平均(27・4%)をはるかに上回る67・8%が私費で占められ、やはり韓国に次いでワースト2位だった。

これに対し、大半の大学が国公立で、授業料も無償か低額、または奨学金制度が充実しているヨーロッパは総じて私費負担が少なく、最も負担の軽いノルウェーは高等教育段階でも3%にすぎない。

◆大学入学が家計圧迫

重い負担は家計を直撃している。東京地区私立大学教職員組合連合が首都圏の16私大・短大の新入生家庭を対象に行った調査によると、08年度の初年度納付金の平均は130万9061円。5人に1人は入学費用を借り入れにより工面していた。自宅外通学者の家庭では入学年度にかかる費用が年収の3分の1にも達していた。国立大の授業料も過去30年で15倍になり、もはや低所得者層の受け皿とは言えない状況だ。

初等中等教育(小中高)段階でも決して負担が軽いわけではなく、私費割合はOECD平均(8・8%)より高い10・1%。日本は私立高校に通う生徒が約3割、東京都に限れば半数以上と、欧米の主要国(数%~20%程度)に比べて多いのが大きな理由だ。しかも、その私立高校ではこのところ授業料値上げが相次いでいる。大阪府では今年度、府内の私立94校の半数以上の50校が、東京都でも233校中54校が値上げした。中には一気に年間20万円近い値上げに踏み切った高校もある。日本私立中学高等学校連合会によると、08年末時点の授業料滞納率は2・7%。経済情勢の悪化で07年度末の3倍に増えた。

◆目標5%、財源は?

民主党は公的財源からの教育支出をGDP比で「先進国の平均水準(5%)に引き上げる」目標を掲げている。無論、それには財源が必要だ。北欧諸国の場合は教育費を無償にする代償として、国民は税率25%前後の付加価値税(消費税)など、世界最高水準の高い税負担を課せられている。仮に民主党の目標を達成するとすれば、新たに必要な財源は8兆円程度になる。

◇1学級当たりの児童数、平均21・4人 日本28・2人、多さくっきり

OECDの調査では、日本の1学級当たりの児童・生徒数の多さも明らかになった。07年は小学校が28・2人で、23カ国のうち、韓国(31人)に次いで多く、最少のルクセンブルク(15・8人)とは12人以上、OECD平均(21・4人)とも7人近い差がある。中学校も33・2人とOECD平均(23・9人)を大きく上回った。

◆学級編成基準の違い

日本の小中学校の学級編成基準は上限40人。文部科学省によると、例えば米カリフォルニア州の小学1~3年生、イギリスの小学1・2年生はいずれも上限30人、ドイツは4年生まで標準24人と、政府の基準自体が日本より少ない。日本でも都道府県の負担で教員を増やして「30人」や「35人」といった少人数学級を実現している自治体も増えているが、欧米諸国に比べれば、まだまだ見劣りする。

学力向上だけでなく、いじめや不登校対策など、きめ細かい指導をするためにも、少人数学級の実現を求める声は多い。文科省によると、仮に学級編成基準を30人に引き下げるには、教員の給与総額で年間8000億円程度が必要になるという。

◇4年制大学進学率は18位 卒業率90%はトップ、平均69%

今春の大学進学率が初めて50%を超えたことが話題になったが、4年制大学(医学部などは6年制)に限れば日本の大学進学率は必ずしも世界トップ水準というわけではない。

今回の調査対象となった07年時点では日本は46%で、27カ国中18位。1位のオーストラリアは86%に達し、OECD平均でも56%。ただ、日本の場合は高校卒業後、短大や専門学校に進むケースが多く、これらを含めた高等教育機関全体では76%と、OECD平均(71%)を上回る。

一方、日本の高等教育機関の中退率は著しく低く、卒業率(05年)は90%と19カ国中トップ。OECD平均は69%で、最も低いアメリカの場合は47%にとどまる。OECDは日本の教育成果の一つに挙げるが、「入りさえすれば卒業できる」日本の高等教育機関の実態を改めて浮き彫りにした、ととらえるほうが的確だろう。

◇給付型奨学金の拡充と財源の議論を--欧米の教育費事情に詳しい東京大学大学総合教育研究センターの小林雅之教授(教育社会学)の話

教育費には大きく分けて三つの考え方がある。

一つ目は教育は社会全体で支えるという考えのもと、税負担が大きい代わりに私立大も含めて無償にするスウェーデンのような北欧型。二つ目が返済が必要なローン型奨学金を利用して学生自身が負担する個人主義的なアメリカ型。

これに対し、親が子供の教育の面倒を見るのが当たり前というのが日本や韓国の考え方だ。

しかし、このままの高い学費で、しかもかつてのような経済成長も期待できないとすれば、所得の高い人は高学歴で子供も高学歴・高所得、所得の低い人はその反対という「階層の再生産」化がますます強固になる。そうやって可能性が閉ざされた社会には活力がなくなり問題だ。

民主党が掲げる「GDP比5%」は現実的には難しいが、日本の公的教育支出は明らかに少なすぎる。

ある程度高い授業料は取るが、一方で低所得層対象に返済をしなくてもよい給付型奨学金を拡充すべきだ。ただそれには何らかの形での増税は避けられず、今後議論する必要がある。

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