新司法試験 抜本的見直しが必要だ 『毎日新聞』社説 2009年9月14日付

『毎日新聞』社説 2009年9月14日付

新司法試験 抜本的見直しが必要だ

もはや本来の目標や想定から大きく外れた。新司法試験の09年結果にはそう感じざるを得ない。

法科大学院修了者が対象の新司法試験は06年から実施されている。法務省は合格率7、8割を見込んだが、初めから5割に届かず年を追って下落、4回目の今回は27・6%と過去最悪を更新して2割台に落ち込んだ。初めて合格者数も前回を下回り、2043人。目安の2500~2900人に遠く及ばなかった。

このままでは、2010年には合格者を3000人と想定し、法曹人口を18年には5万人(08年約3万1000人)と描いた政府の計画は画餅(がべい)に帰すほかない。

一方で、法科大学院は74校で1学年定員約5800人。後れを取るまいというふうに相次いで設立され、「乱立」とも評される。その内実は一定ではなく、各校の合格率は大きな開きが生じている。

新司法試験をめぐるこうした状況は制度発足時から懸念された。中央教育審議会は今春、法科大学院の入学者の質の確保、修了者の質の保証、教育体制充実、評価システム確立を柱に改善を強く求め、入学定員削減を迫った。入学者選抜や修了認定を厳格にし、高水準の教育を保つ。当然のはずだが、多くの大学院にそれができていない実態がある。

だが、法科大学院にメスを入れれば万事解決する話ではない。

裁判員裁判、法テラスとともに司法改革の柱である新司法試験は、法曹人口を大幅に増やし、市民が日常のトラブルなどでも適正な法的解決がしやすくすることが主眼だ。

また最難関試験で合格率数%だった旧来の司法試験とは違って、新制度は法学知識偏重の「ペーパーテスト秀才」ではない、人間性、教養、柔軟な発想力など幅広い適材を求めたはずだ。法科大学院に法学部出身者以外の未修者コース(3年)があるが、今回の合格率は18・9%で法学部出身者向け既修者コース(2年)の半分にも満たなかった。

法科大学院側からは、結局は法学系以外の社会人らに不利な試験になっていないかという指摘もある。試験内容や選考基準などを本来の目的に照らし、詳しく検証してほしい。

合格者大幅増で「質の低下」の指摘もあり、日本弁護士連合会は増員のペースダウンを提言した。弁護士の就職難という状況もある。

だが忘れてならないのは、司法が市民生活にとけ込み、気後れなく活用できることは、これからの社会の活性化に不可欠ということだ。

その理念を下ろさず、どう問題点を改善するか。政府、教育界、法曹界は試行錯誤をいとわず、一致して取りかかってほしい。正念場だ。

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