『中日新聞』北陸版 2013年10月1日付
派遣留学が急増中 金大生は「外向き」志向
国際学類新設交流協定拡大 5年で4.2倍に
海外留学を希望する日本人学生が減少する中、金沢大の派遣留学生が二〇一〇年度から三年連続で増加している。大学が積極的に留学環境を整え、五年前の四・二倍と急増した。一三年度は八月末現在で五十八人を数え、過去最多だった一二年度の実績(五十九人)に迫る。(前口憲幸)
金大は〇八年度、留学を推奨する国際学類を新設。海外の大学や研究機関と積極的に交流協定を結び、協定は百七十五になる。協定の数は十年前に比べ二・六倍の伸びで、金大の国際化を鮮明に映す。
文部科学省によると、一〇年に海外留学した日本人学生は五万八千六十人で、六年連続で減少。ピークの〇四年と比べ、約二万五千人(30%)も減り、学生の「内向き志向」の高まりが指摘される。
金大もかつて、海外留学が減少。ピークの〇四年度から四年連続で減り、〇七年度は過去十年間で最少の十四人だった。しかし、国際学類ができた〇八年度に増加に転じ、一〇年度に初めて大台の五十人に。三年連続で過去最多を更新した。
一方、政府は国際競争力の強化を念頭に、グローバル人材の育成を大学改革の柱に据える。日本再興戦略では海外留学生を倍増する目標を明記。義務教育段階での英語力向上にも取り組む方針を示す。
金大の留学支援について、文科省の担当者は「国際系の私立大が留学生の数を伸ばす事例はあるが、地方の国立大では珍しい」と評価。交流協定にも触れて「金大は地域と連携し、留学生の受け入れにも前向き。この姿勢が交流拡大に結び付いた」と分析する。
自主講座で多言語学習
海外留学を志す学生が増えている金沢大で、多言語を学ぶ動きが出ている。二〇一三年度、トルコ語とアラビア語の自主講座が相次いで開講。英語以外では、中国語や韓国語、ドイツ語、フランス語が中心だが、なじみの薄い中近東の言語にも関心が広がっている。
「トルコ語の文法は日本語に近いです」。角間キャンパスの教室で開かれるトルコ語講座。両親がトルコ人の留学生カプラン・タイジャンさん(24)が講師を務める。手作りプリントを示して「文字はアルファベットを使います。発音は少し難しいけど、ローマ字だから親しみやすいですよ」と助言する。
二つの講座の立ち上げに協力したのは国際学類の粕谷雄一教授(フランス語文化)。「多言語の学習に意欲ある学生の受け皿を整えたかった」と説明する。トルコ語を学ぶ学校教育学類三年の浅岡詩穂さん(21)は「大学時代は自身の可能性を広げるチャンス」と話す。
中近東の言語を学ぶ背景には時事の動きに敏感な学生たちの旺盛な好奇心がある。
トルコ語講座の話が具体化したのは一二年度。二〇年夏季五輪招致でイスタンブールの話題にあふれていたころだ。一方、アラビア語が開講した契機は一三年一月のアルジェリア人質事件。日本人が犠牲となった事件後で、粕谷教授に「アラビア語を学びたい」との要望が寄せられた。粕谷教授は「イメージ悪化を懸念したが、逆に『現地を知りたい』と思ったようだ」と説明する。
日本再興戦略 安倍政権が6月に閣議決定した成長戦略。大学改革ではグローバル化による世界トップレベルの教育の実現を掲げる。2020年までに日本人留学生を12万人に倍増するほか、優秀な外国人留学生の受け入れを12年の14万人から30万人に増やす目標も明記。留学の機会を増やすため、秋入学に向けた環境整備も検討している。