教員養成改革/高学歴化も結構だけれど『河北新報』社説2012年9月9日付

『河北新報』社説2012年9月9日付

教員養成改革/高学歴化も結構だけれど

 改革の理念に共感しつつも、実効性と実現性への懸念は否めない。中央教育審議会が先日、平野博文文科相に答申した教員養成改革である。

 答申は教員を「高度専門職業人」と位置付け、養成の方向性として「修士レベル化を図る」と明記。新たに3段階の教員免許制度を創設するとした。

 標準となる「一般免許」は学部4年に加えて1~2年間、修士レベルの課程で学んだ人に付与。学部卒業者には「基礎免許」を与え、早期に一般免許を取得してもらう。

 一定の経験年数を重ね、研修などで高い専門性を身に付けた教員に対しては、最上位の「専門免許」を設ける。

 基礎免許は当面の間とし、学級担任をせず授業の補助などにとどめる案を含め、今後、任務を検討する方針。正教員として教壇に立つのは「大学院修士課程修了」が原則となる。

 教育現場を取り巻く環境は大きく変わった。高度化・複雑化する課題に対処するため、学校や教員に求められる役割は多様で難しさを増している。

 社会問題化するいじめや不登校への対応など、教員の指導力が厳しく問われる状況もある。

 教員の資質向上が望まれており、答申が掲げている改革理念に違和感はない。知識を蓄え技能の研さんに努めるなど、「学び続ける教師像」の確立を求めたことも当然だ。ただ、「高学歴化」という形にこだわり、先を急いでは成果は危うくなる。

 一時論議された教員資格取得の6年課程化が、経済的な負担の重さにより優秀な教員志望者を遠ざけることにつながるとして半ば消滅。そうした懸念が取り除かれたわけではない。

 修学期間の延長に代わるように2008年に創設され、答申で修士レベルの教育を施す要と期待する教職大学院も多くの課題を抱えている。

 教職大学院は現在25校、定員は計815人。採用試験で優遇されないなど、利点の乏しさもあり定員割れが目立つ。教員採用は全国で毎年3万人に上り、受け皿を飛躍的に拡大しなければ、構想は前に進めない。

 当分、基礎免許での教員採用を認める場合、一般免許の取得を求める時期をどう設定するのか。採用で優遇するなど、大学院修了を事実上の採用要件とする場合、奨学金など支援措置の拡充が必要で、財源確保の課題を乗り越えられるのか。

 フィンランドやフランスなどは教員養成の修士レベル化を採用している。ただ、学部卒が大半の先輩と少数の高学歴の若手との協調のきしみなども無視できず、丁寧な制度設計と慎重な工程が欠かせない。

 力量を高める上で、期間を延ばすなど教員研修の充実強化策も大事にしたい。初任者研修の抜本的な見直しや教員免許更新時講習の徹底的な検証と内容の改善にも目を向けたい。

 答申の柱の一つ、教育委員会と大学の連携強化も重要だ。大改革の前に、できること、しなければならないことは多い。

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