育て獣医師“薩長同盟” 鹿大、山大「共同学部」発足『西日本新聞』2012年4月1日付

『西日本新聞』2012年4月1日付

育て獣医師“薩長同盟” 鹿大、山大「共同学部」発足

 鹿児島大と山口大は1日付で、同じ教育課程で獣医師を育てる「共同獣医学部」を新設する。両大学をインターネット回線で結ぶ遠隔授業によって少ない教員を補完し合う、全国初の試みだ。背景には、家畜伝染病・口蹄疫(こうていえき)といった大規模な感染症への対応から、食の安全確保まで、近年の獣医師の役割増大がある。“薩長同盟”で互いの強みを生かし、世界に通じる獣医学教育を目指す。

 鹿児島市の鹿児島大。「最新鋭の機材をそろえた」。そう語る担当者に案内された教室には、ハイビジョンの大画面や電子黒板が並ぶ。

 鹿大が導入した遠隔授業システムだ。直線で約300キロ離れた山口市の山口大との間をネット回線で結ぶ。画面の一つに映し出されたのは山大の教室。山大の画面には鹿大の教室が映る。電子黒板の文字も即時送信され、教員は授業を生中継し、1人で両大学の学生を教えることができる。

 共同獣医学部は、両大学の農学部獣医学科を改編し、それぞれ設置する。入試は別々に実施し、学生は各大学に所属するが、同じカリキュラムと時間割で学ぶ。必要に応じて専門科目の遠隔授業を行い、夏休みなどは相互の大学に学生を集め、共同実習も予定する。

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 「日本の獣医学教育は世界的に遅れているが、一つの大学で充実させるのは難しい」。鹿大の学部長に就任する高瀬公三教授は“薩長同盟”の背景をこう説明する。

 近年、獣医師は治療だけでなく、口蹄疫や鳥インフルエンザなど感染症への対応、国際的な防疫、食の安全確保など、幅広い知識と技術が求められている。対応するには国際水準の獣医学教育が不可欠なのだという。

 しかし、「日本は欧米に比べて獣医学教育の規模が小さい」と高瀬教授。獣医師の養成課程がある国立大は10校で、各大学の教員は欧米の4分の1程度しかいない。

 連携には、少ない教員を補完し合う狙いが大きい。例えば、教員約30人の鹿大は消化器系の専門教員が不在で、これまで循環器系の専門教員が教えていた。4月からは、鹿大の学生は山大の専門教員から遠隔授業で学べるようになる。

 両大学には、それぞれの特長がある。鹿大は畜産地帯を抱え、家畜など産業動物に強い。学内には全国唯一の馬専門の診療施設もある。一方、山大はペットなどの感染症分野に定評がある。互いの強みを生かし、教育の質を高めていくという。

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 地域貢献も期待されている。日本はペットの獣医師が多く、産業動物の専門家や自治体の勤務医が少ない。2年前に宮崎県で口蹄疫が流行した際は、獣医師不足が浮き彫りになった。高瀬教授は「高い技術を持つ獣医師を多く輩出し、『獣医師の偏在』という課題を解消したい」と話す。

 一方、遠隔教育の限界を指摘する声もある。日本獣医師会九州地区理事を務める鹿児島県獣医師会の坂本紘(ひろし)会長は「獣医学は実学で、映像だけで学べるものではない。現場で顔を突き合わせて学ぶ共同実習の充実が、質の高い教育につながる」と強調した。

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