『西日本新聞』社説2012年4月2日付
核兵器廃絶研究 長崎大の決意に期待する
被爆地・ナガサキにある大学だからこそ、平和な世界をつくり出すために、やらねばならぬことがある-。そんな強い決意が伝わってくるようだ。
長崎大核兵器廃絶研究センター(梅林宏道センター長)が1日、開所した。
「核なき世界の実現」に向け、具体的な手法と理論を専門的に研究して、国際機関や各国政府に政策を提言する。
長崎大によると、核兵器廃絶にテーマを絞った調査研究機関は国内初という。被爆体験を訴え、核兵器の悲惨さを世界に問うてきた被爆地の取り組みを、さらに一歩進めるものとして評価したい。
核兵器に関するデータベース構築など情報収集機能を高め、時代に即した平和研究の成果を世界に発信する。講座や公開シンポジウムなどを開き、学生や市民との連携を重視するのも特徴だ。
今月末からウィーンで開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議第1回準備委員会には早速、スタッフを派遣し、核兵器をめぐる情勢分析などをする。
長崎大のセンター設立の背景にあるのは、世界で唯一の被爆国の中でも実際に“被爆体験”を持つ学術機関としての使命だ。67年前の原爆で前身の長崎医科大の学生ら約900人が犠牲となった。
設置趣旨の中で「核なき世界の実現」が大学にとって極めて重要な課題とうたっていることは、十分に理解できる。
故鎌田定夫さんが設立し、反核・平和運動の理論的拠点だった民間の「長崎平和研究所」が、財政難などから2年前に閉鎖されたのも大きな要因だった。
長崎大は従来、原爆被爆者や旧ソ連・チェルノブイリ原発事故の被ばく者の治療など、医学的研究には実績があるが、核軍縮や平和などに関する研究の弱さが指摘されていた。このため、国際的に通用する研究機関の設置を求める声が地元を中心に高まっていたのである。
こうした状況の中で、長崎大は長崎市や軍縮・核兵器問題の専門家などを交えて約1年をかけて構想を練ってきた。
そうして導き出されたのが、国立大としては例のない核兵器廃絶に特化した研究機関を創設して、具体的な平和への道筋を世界に発信していくことだった。
センター設立を働きかけた一人、元長崎大学長の土山秀夫さんは「被爆者が積み重ねてきた感性に訴え掛ける活動と、論理に訴える活動の両方が大事」と常々発言している。その通りであろう。
「核兵器なき世界」を提唱したオバマ米大統領のプラハ演説から3年たつが、北朝鮮やイランが核開発を続けるなど国際社会が核兵器廃絶に向かっているとは言い難い状況だ。それだけに、発足したセンターにかかる期待も大きい。
東京電力福島第1原発の事故を受け、放射能による被害という観点からも、原発をめぐる研究も避けては通れまい。
私たちは市民の立場から、長崎大の挑戦が花開くよう願うと同時に、活動に積極的に参画して後押ししていきたい。