社説:科技予算増額 一時的なものでなく『毎日新聞』社説2010年12月30日付

『毎日新聞』社説2010年12月30日付

社説:科技予算増額 一時的なものでなく

 「クリスマスプレゼント」という声もあるようだ。24日に閣議決定された11年度の政府予算案で国の科学技術振興費が増額された。

 科振費は長年、右肩上がりに増えてきたが、今年度は27年ぶりに減額された。来年度も厳しいと思われていただけに、胸をなでおろしている関係者は多いだろう。

 特に、大幅増額が打ち出されたのが科学研究費補助金(科研費)だ。個人の興味に基づく基礎研究を支える競争的資金の一つである。応募での採択率が2割程度まで落ち込んでいるが、増額で採択率が上がれば基礎研究の裾野が広がる。

 複数年度にわたって使用できるようにする制度改革も進めるという。単年度予算による使い勝手の悪さが指摘されてきただけに歓迎したい。

 国立大の基盤的経費である運営費交付金は引き続きマイナスとなっているが、削減率は減っている。博士研究員(ポスドク)の支援事業や、若手研究者の自立を支援する事業も拡充されている。将来を担う若手支援は待ったなしの課題であり、こうしたプラス面は評価したい。

 一方で素直に喜べない要素もある。まず、予算案決定の基本ルールがわかりにくい。事業再仕分けや政策コンテストでは、科学技術予算に厳しい評価が下されていた。

 それが仮に首相の一声でひっくり返るとすれば、一体、どういう全体方針のもとに科学技術予算を配分しているのか。中には科学技術振興調整費のように仕分けを優先し、予算案でも廃止とされた競争的資金もあり、原則がわからない。

 科振費全体の増額の背景として日本人のノーベル化学賞受賞や探査機「はやぶさ」の成果があげられている。政策コンテストに対し28万通にのぼるパブリックコメントが寄せられたことも一因のようだ。

 しかし、科学技術政策は一つの突出した成果や、研究者の反発の大きさに基づいて場当たり的に決めるものではない。長期的視点に立って全体のビジョンを決め、その方針に従って配分すべきものだ。

 その意味で、はやぶさ後継機に予算がついたこと自体はよかったが、宇宙予算は減額となっており、宇宙政策の全体像がはっきりしなければ手放しで喜んではいられない。

 民主党は、国の科学技術政策の「司令塔」である総合科学技術会議の改組も掲げてきたが、進んでいない。来年度は第4期科学技術基本計画の初年度だが、この計画と予算配分方針の整合性もよく見えない。

 今回の増額は日本の科学技術が心底大事だと思ってのことなのだろうか。そんな疑問を吹き飛ばす納得のいく方針をはっきり示してほしい。

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