余録:フィンランドの「米百俵」『毎日新聞』2010年8月21日付

『毎日新聞』2010年8月21日付

余録:フィンランドの「米百俵」

教育の重要性を説く故事に「米百俵」がある。幕末の戊辰(ぼしん)戦争に敗れ困窮の極みにあった長岡藩は、支藩にもらった米百俵を藩士にバラまかず学校設立に使った。いま食えばそれきりだが、教育に使えば将来100万俵になって返ってくる▲01年に首相に就任した小泉純一郎氏が所信表明演説で引用して有名になった。これを文字通り実行したのが北欧のフィンランドだ。ソ連崩壊の余波で大不況に見舞われ国の歳出は大幅カット。そのなかで教育費だけ増やす大勝負に出た▲それは大きな果実をもたらした。子どもたちの学力は急伸。国際比較ではいつも世界のトップだ。ノキアなど知識集約型の産業が発展し「森と湖の国」はハイテク国家に変容した▲菅直人首相は財政の立て直しを急いでいる。増税するにせよ、その前に限度まで歳出カットだ。教育予算も例外にできない。そういう方針だから教育関係者には危機感が強い。ことに大学。国立大学の運営に対する補助金も大幅にカットされようとしている▲シンガポール政府のウェブサイトを見ると、英語、日本語、中国語、韓国語など7種の言語で、世界の若者に留学を呼びかけている。もしあなたが卒業後3年間シンガポールで働けば、学費の8割を無償供与しましょうと。世界の大学はいま、いかに海外の優秀な頭脳を獲得するかを競う。それが国の将来を左右するからだ▲日本は大丈夫だろうか。英タイムズ紙系の「QS大学ランキング」10年版(アジア地域)を見ると、シンガポール国立大学が昨年の10位から3位に急上昇し、東京大学の5位(日本では首位)を追い越していた。

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