『産経新聞』主張 2014年5月1日付
学長権限の強化 人材得て魅力ある大学を
「教授会にお伺いを立てなければ、ことが進まない」という旧態依然の体制を変革できるか。
国会に提出された、大学の学長権限強化を柱とする学校教育法改正案などのねらいである。
大学は大きな時代の変化にさらされている。少子化の一方で進学率は上がり、全入時代ともいわれる。質低下への懸念は強い。
世界に目を向ければ、東大、京大などトップクラスでも教育研究環境のさらなる改善を迫られ、改革なしに勝ち残りはできない。
単に手足を縛られた学長を解放することが目的ではない。魅力ある大学に向け、改革をやり遂げられる制度を探ってほしい。
日本の大学は学部ごとに置かれた教授会の権限が強い。教授選考など学部内の問題で事実上決定権を握り、学長もなかなか口をはさめない。学部の力関係で学長が決まる大学も少なくない。
国公私立大に適用される学校教育法の改正案では、教授会の役割を「重要な事項を審議する」から「学長に意見を述べる」に改め、審議事項も限定する。
国立大の組織運営を定めた国立大学法人法改正案は、学長選考方法を明確化し、将来計画や予算を審議・助言する「経営協議会」に学外の意見を入れやすくする。
学長がリーダーシップを発揮しやすい運営体制を目指すのは、改革を機動的に進めるためにほかならない。10年前に法人化された国立大にもこうした発想は取り入れられ、学長が経営戦略を立て、学長らが構成する役員会が重要事項を決定する仕組みはある。
しかし、「意思決定が速くなった」との声がある一方で「いまだに文部科学省、役員会、教授会の三重構造」で学長主導の体制が機能していないとの批判がある。
学長選も、学外委員らを交えて適任者を選ぶと定められているのに、ほとんどの大学は教授らによる選挙結果を踏まえて決める。
改革の成否そのものは法改正ではなく、あくまでもビジョンと情熱を持った人物に学長を委ねられるかにかかっている。そのスタッフも、内外から能力の高い人材を起用することが欠かせない。
独り善がりで閉鎖的な「象牙の塔」ではいられない。学生のニーズをとらえた改革も必要だが、それ以上に教育研究を進める本来の大学の価値を考え、一致協力できる体制が求められる。