大学改革 学長だけでは担えない 『北海道新聞』社説 2014年4月29日付

『北海道新聞』社説 2014年4月29日付

大学改革 学長だけでは担えない

学校教育法は大学の目的について、広く知識を授け、専門的な研究を深める場と定めている。その理念が損なわれかねない。

大学改革に主眼を置いた学校教育法改正案などが近く、国会で審議入りする。

政府案は国公私立大学の運営権限を学長に集中し、これまで重要事項の審議機関として大きな権限を持っていた学部の教授会を学長の助言役にするのが柱だ。

個々の大学の経営や競争力を強化し、改革の迅速化を図るのが狙いだとするが、学内が上意下達の組織に変質することは否めない。

大学の根幹である自治・自発性や研究の自由を揺るがし、活力を奪うことにつながらないか、強い危惧を覚える。

とりわけ経済人などで構成する選考会議が学長選考の決定権を持つことになる国立大学の法改正には、懸念を抱かざるを得ない。

教育や研究のあり方についての深い洞察よりも、目先のことを追求する能力が学長の資質として優先されかねないからだ。

企業経営を意識した組織の改編は大学にはなじまない。

学長権限強化の契機となったのは2012年、東大での秋入学をめぐる学内論議だった。

秋入学は浜田純一学長が国際化を狙いに発案したが、一部の教授会の抵抗もあって頓挫した。

権限の集中を掲げる背景には、世界ランキング100位以内に日本から10大学を入れたいとする安倍晋三政権の国際競争力強化戦略があることは明らかだ。

これまでにない高い目標を達成するには、大学組織を根底からつくり変える必要があると考えているのだろう。

だが、大学の評価は地道な研究の積み重ねの結果として得られるものだ。ランクづけを前提に大学同士、研究者同士を競わせるのは本末転倒ではないか。

さらに懸念されるのは、先端技術や実利分野に研究資金が集中投下され、基礎科学や社会・人文科学の研究が軽視される風潮だ。

土台なしに上屋は築けないことを忘れてはならない。

もちろん現行制度に問題がないわけではない。古い価値観や旧態依然の慣習を変えていくのは当然だ。現行の教授会が思い切った改革に踏み出せないでいる現状はもはや放置できない。

教職員一人一人が大学の存在意義を見失わず、柔軟な発想で対応策を発議する。これを改革の出発点とすべきだ。

 

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