教育再生 「強い日本」への改革に危うさ 『愛媛新聞』社説 2014年1月5日付

『愛媛新聞』社説 2014年1月5日付

教育再生 「強い日本」への改革に危うさ

「『強い日本』を取り戻す戦いは始まったばかり。日本の『新しい国づくり』に向けて大きな一歩を踏み出すべき時だ」。安倍晋三首相は年頭所感でこう述べ、教育再生を憲法改正議論や安全保障政策とともに重要課題とした。

いま、学校教育が目まぐるしく変わろうとしている。安倍政権発足以来、わずか1年の間に、教育制度改革が次々と打ち出された。実行に向けて今年は動きが本格化する。

人をどう育てるかは、この国の未来図をどのように描くかの表れでもある。「強い日本」に向け矢継ぎ早に変えられていく教育の姿に無頓着でいるわけにはいかない。必要な改革か、方向性に誤りはないか厳しく監視し、社会全体で論議しなければならない。

文部科学省は、小中学校で教える内容や授業時間を定めている学習指導要領について2016年度全面改定を目指して今夏にも中教審に諮問する。安倍政権は愛国心や伝統を重視しており、高校の日本史必修化が焦点のひとつだ。

日本の歴史を学ぶことに異議はない。ただ、小中高校の社会科分野の教科書検定基準は月内にも改定される見通しだ。政府や自民党の意向を受け、近現代史の歴史的事実に関して政府見解の尊重を求める。教科書会社に、従軍慰安婦の扱いや南京事件の被害者数などを軌道修正させる思惑がある。さらに、愛国心を養う記述も増やすよう促す。

検定という権限を使い、政治の思惑で教科書の内容を制限し、教育を一定の方向に導くことは決して許されない。

小中学校の道徳も、価値観の植え付けにつながりかねない検定教科書と評価の導入に向け、具体的検討に入る。

加えて教育委員会制度改革では、首長に教育行政の最終権限を持たせる改正法案が通常国会に提出される予定だ。為政者の意向で学校運営を左右する懸念が拭えない。教委制度は政治と一体になった軍国教育の反省から、戦後、政治的中立を守ってきた。骨抜きにしないよう、国会での慎重な審議を求めたい。

一連の改革をみれば、戦前を思わせる右傾化や政治介入の流れの加速が明らかだ。教育の自由は断固として守り抜かなければならない。

もうひとつの「強い日本」への改革は英語教育。小3からの開始や日本語を使わない中学の英語授業など18年度先行実施を目指す。安倍首相の狙いは成長戦略の中で「世界に勝てる」人材育成にある。

東アジアの緊張やエネルギー、環境問題、少子高齢化など難題を抱える時代。真に必要なのは、国際的協調を進めて課題に立ち向かい、平和な社会を築く力の育成だ。大学入試改革や6・3・3制見直しも含め、改革ありきではなく、深い論議の年にしたい。

 

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