『河北新報』社説 2013年10月29日付
大学入試改革/納得の得られる制度目指せ
政府の教育再生実行会議が、現行の大学入試センター試験に替わる新テストの創設を、近く安倍晋三首相に提言する。
高校生の学習到達度を把握する「基礎」と、大学の一般入試に利用される「発展」の2種類のテスト導入が柱で、それぞれ高校在学中に複数回の受験を可能とする案が有力だ。
実現すれば、1979年に始まった共通1次試験以来続いてきた、「一発勝負」による入試制度の見直しにもつながる大改革となるだけに、関心は高い。
制度設計や運営体制などの検討は、文部科学相の諮問機関・中央教育審議会(中教審)が担うが、入試改革の及ぼす影響は教育界にとどまらない。拙速を避け、慎重な議論と国民への丁寧な説明を強く求めたい。
大学入試は本来、大学の定めた教育理念と求める人材にふさわしい受験生を選抜する最も重要な手続きのはずだ。
しかし、大学が自らの責任を放棄していると見なされても仕方がない状況が目立っている。
経営環境が厳しい私立大では、入試問題を自前で作れず予備校などに外注している。学力を問わない推薦・AO(アドミッション・オフィス)入試を安易に拡大し、学力低下を招いている大学も少なくない。
多くの私立大が利用するセンター試験についても、難易度の問題から得点分布の二極化が進むなど、制度疲労を指摘する声が強く、選抜ツールとしての役割に疑問符がついて久しい。
こうした現状を見れば、受験生の能力や意欲を多面的に評価する入試制度への転換は急務と言える。ただ、新制度の成否は、どれだけ多くの大学と高校が参加するかにかかっており、関係者や専門家らによる綿密な議論が必要になるだろう。
例えば、センター試験を引き継ぐ「発展」テスト。知識偏重というこれまでの反省を踏まえ、1点刻みではなく一定幅の段階評価とする。大学入学後に必要な基礎学力を見極める資料との位置付けだ。
大学には、面接や論文等を組み合わせた2次試験を求め、総合的な人物評価を促すというが、評価分け段階での線引き作業は残る。面接の実施は受験生が多い大学ほど負担増となり、面接官を増やせばそれだけ公平性が問われることにもなる。
また、受験機会を複数回とする案は、天候や体調に左右されて実力を発揮できない不運を救う点から理解できるものの、どの段階から認めるかは悩ましい。仮に高校2年で認めれば、早期の受験対策を強いて競争をあおる結果にもなりかねない。
新たな制度の必要性を認識してもらい、納得を得られる内容に仕上げない限り、現場の抵抗感は強いと予想される。中教審の責任は重い。
そもそも入試は、大学が社会の求めに応えて描く未来像を念頭に検討されるもので、入り口の技術論だけで完結するテーマではない。見直しは広範な大学改革の中の一つでしかないという原点を忘れてはならない。