子どもの貧困(8) 奨学金可否で進学に明暗『読売新聞』 2013年10月26日付

『読売新聞』 2013年10月26日付

子どもの貧困(8) 奨学金可否で進学に明暗

東京都多摩市で9月、イトーヨーカ堂の創業者が設立した公益財団法人・伊藤謝恩育英財団が開いた奨学金研修会。

奨学金を受ける全国の大学生約140人が自分の専攻や将来の目標を語り合っていた。

その中に東京大学に今春入った男子学生(19)の姿もあった。「奨学金のおかげで充実した学生生活を送れる。将来は国際NGOに入り、発展途上国のために働きたい」と学生は語った。

この財団の奨学金は経済的に苦しい家庭に配慮し、返済の必要がない「給付型」で、入学一時金30万円のほか、毎月6万円が支給される。学生は飲食店のアルバイトを週3回こなし、実家から仕送りを受けていない。

学生が中部地方の公立高校2年生だった時、父親が経営する会社が倒産し、両親は離婚した。一緒に暮らす母親が働きながら借金を返済していたため、学生は大学の入学金や授業料を母親に頼れない状況になった。

そんな時に学校で知ったのが同財団の奨学金だった。

大学入試の前に奨学金支給の内定が出る「予約型」というタイプで、学生は昨年10月に内定通知を受けた。「入学後の見通しが立ってほっとした。何としても合格しようと思った」といい、早朝や放課後、休日も学校で受験勉強に打ち込んだ。

独立行政法人・日本学生支援機構の調査では、2010年度に奨学金を受けた大学生や高校生などのうち、給付型は11%(約19万人)。返済が必要で卒業時に数百万円の負債を抱えることもある「貸与型」が89%(約152万人)を占めており、給付型の拡充を望む声は強い。

ただ、いずれの奨学金も受けられず、進学をあきらめる例も少なくない。

茨城県立高校3年生の男子生徒(18)は情報処理の科目が得意で、ゲームソフト制作の専門学校への進学を考えていた。

しかし、パートを掛け持ちする母親の月収は10万円程度。母親、兄妹と4人暮らしの生活を考えれば、進学費用は自分で用意するしかなかった。

1年生の夏からアルバイトを始めたが、アルバイト代から家の光熱費を負担しなければならず、3年生の夏になっても進学に必要な100万円をためられる見通しは立たなかった。

さらに、アルバイトや家事に時間を取られて英語や数学の成績は下がっていった。奨学金の審査を通るのは難しくなり、結局、進学を断念した。その後、就職活動を始めたが、希望した情報処理会社には採用されず、来春から地元企業での工場勤務が決まった。この男子生徒は「勉強だけに専念できていたら、と悔しい気持ちはある。でも、今は頑張って働きたいと思っている」と話す。

貧困家庭の高校生を支援する「首都圏高校生集会実行委員会」世話人の鈴木敏則さん(62)は「アルバイトに疲れ果てた高校生は十分勉強できず、進学も将来の夢もあきらめてしまうことが多い。家庭の経済状況によって進路選択の幅が狭められることがないよう、給付型奨学金の拡充など教育費の負担軽減を進めるべきだ」と訴える。(山田睦子、大広悠子)

 

 

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