たかが…されど大学ランキング 国の予算措置で注目『朝日新聞』2013年9月8日付

『朝日新聞』2013年9月8日付

たかが…されど大学ランキング 国の予算措置で注目

【渡辺志帆】「大学の国際化」の必要性が叫ばれる中、世界の大学ランキングが注目されている。安倍政権は成長戦略のひとつに「今後10年で100位以内に10大学」を掲げ、予算措置に乗り出した。大学側には「一つの指標に過ぎない」と冷めた見方が目立つ中、「されどランキング」と順位上昇に取り組む大学も出てきている。

■国、目標掲げ交付金

文部科学省は8月末、来年度予算の概算要求で、えりすぐりの国内30大学を「スーパーグローバル大学」に指定し、国際化を進める新規事業に約156億円を盛り込むと発表した。このうち世界トップ水準の教育研究を進めることができる「トップ型」10大学には、毎年6億~10億円程度を10年間継続して交付。各大学の世界ランキングのアップを後押しするという。

「今後10年で世界大学ランキングトップ100に10校ランクイン」。この数値目標は、政府が設けた教育再生実行会議の提言や、これを受けた成長戦略で示されたものだ。国内の大学が世界での「格付け」に苦戦している状況を何とか打開したいとの狙いがある。

主要ランキングの一つ、英国の高等教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の最新ランキングで100位以内に入ったのは東大(27位)と京大(54位)だけ。評価指標の変更などのため単純比較はできないが、3年前は6大学が入っていた。

英国QS社のランキングでも、100位以内は東大(30位)を筆頭に6大学あるが、いずれも前年より3~8位、順位を下げた。8月中旬に中国・上海交通大学が公表したランキングも、100位以内は3大学で、03年の初回以降で最も少なかった。

世界ランキングの後退は、国内大学の研究力が相対的に低下しているという一面を映し出す。

これらのランキングとは別に、文科省直轄の「科学技術・学術政策研究所」が科学研究の学術論文について調べたところ、日本は引用回数の多い「注目度の高い論文」の割合が低下。引用回数の「トップ10%論文」でみると、99~01年に世界4位だったのが、09~11年は中国やフランスに抜かれて7位だった。

複数の国の研究機関による国際共著論文の割合も、英国やフランスなどが50%を超えているのに対し、日本は約26%。中国は約24%と日本より低いが、国際共著論文数そのものは日本を上回った。「トップ10%論文」の本数の伸び率は、日本の16%に対し、中国は500%超、韓国は200%超にのぼる。

文科省の幹部は「今ならまだ日本の大学も他国に優位性があり、海外から研究者を招いたり、アジアの優秀な留学生を呼んだりして国際共同研究を増やせる」として、「日本の大学が生き残るために、戦略的にランキングを高めることも大事だ」と説明する。

■「優秀な留学生集まる」 ランクアップ狙う大学も

「格付け」アップに熱を上げる国の取り組みを、大学側はどう見ているのか。

「ランキングは国際化の進度を測る指標の一つにすぎず、一喜一憂はしない」と話すのは、首都大学東京の奥村次徳副学長だ。同大はTHEのランキングで総合251~275位だが、論文引用の点数に絞ると、東大や英オックスフォード大を上回る。国際共著論文の比率が高いことなどが理由という。

奥村副学長は「国際的に競争した結果としてランキングが上がることは悪くない」としながらも、「ランキングを上げることを目的にしては本末転倒。10大学だけに資金をつぎ込んで上位に入るのか根拠が不明だし、国がどう現実味のある支援をしていくかも議論されていない」と懐疑的だ。

東大の江川雅子理事は「ランキングの影響力は無視できないが、大学の実態を表しているとはいいがたい」。主要ランキングの評価対象が、英文の理系論文に偏っている点や、大学によって異なる歴史や背景を無視した単純な指標で比べる点などが問題だという。

ただ、海外では「大学の競争力は国の競争力と直結する」との考えから、政府が少数の大学に集中投資してトップ大学に押し上げようという競争が激しくなっている。江川理事は「政府が財源を投じる方向性は評価できる」と一定の理解を示した。

一方、立命館大学とアジア太平洋大学を合わせて約3600人の留学生を受け入れる学校法人立命館は、ランキング向上を意識した取り組みを始めている。川口清史総長は「たかがランキング、されどランキングだ。どうやって上げていくか、本気で考えないといけない」と強調する。

同大のランキングはQS社で600位以下。国から手厚い補助金を受ける国立大学との差は簡単には埋まらない。川口総長は「優秀な留学生を集めるのにランキングはとても重要。順位が低いと海外の大学と組もうにも、相手にしてもらえない」と言う。

国際化や研究教育を高めるノウハウを学ぼうと、同大は昨年6月、QS社ランキングを4年間で250位以上アップさせた韓国の私立慶熙(キョンヒ)大学の国際交流担当者を招き、職員向けの特別講義を開いた。また、「一番の基本は研究力。国際的な連携が重要だ」(川口総長)として、来年1月に英ロンドンの現地事務所でシンポジウムを開き、同大の研究成果の海外発信と国際共同研究の活性化に力を入れたい考えだ。

同大広報課は「世界から評価される教育研究の実績を上げることがランキング上昇につながる」と話している。

〈大学ランキング〉 世界の大学を序列づけるランキングは様々あり、英国の高等教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)、英国の教育情報会社QS社、中国の上海交通大学によるものが特に有名。それぞれ順位を決めるための指標や各指標のウエートが異なる。THEの場合、論文の引用数30%、研究者間の評価18%など、5分野13指標に基づいて点数を決めている。グローバル化で留学生数が増える中、競争力のある大学を国際比較することへの関心が高まっている。

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