交付金、18国立大に重点 改革構想に応じて差『朝日新聞」2013年10月11日付

『朝日新聞」2013年10月11日付

交付金、18国立大に重点 改革構想に応じて差

国立大学の改革を加速させようと、文部科学省は来年度から、国立大への運営費交付金を18大学に重点的に配分する。これまで運営費交付金は学生数や規模などに応じて全国立大にほぼ機械的に振り分けられてきていて、一部とはいえ、限られた大学だけに政策的に配られるのは初めてだ。交付金の格差という「アメとムチ」を前に、各大学は対応を迫られている。

文科省は、来年度の運営費交付金として約1兆1410億円(前年度比618億円増)を財務省に予算要求した。このうち110億円について、大学組織や研究教育の抜本的な改革構想を示した18大学に対し、2・8億~11億円ずつ重点配分する方針だ。

年数に限りがあるなど不安定な競争的資金ではなく、国立大の収入の4割を占める運営費交付金として配分するのは、大学の財政基盤を支え、継続して改革に取り組めるようにするのが目的という。

改革構想はあっても、学内の意見をまとめきれないことなどが原因で、今回は68国立大が重点配分の対象にならなかった。文科省は、これらの大学についても、少なくとも改革の加速期間と位置づける2015年度までは準備が整えば配分する方針だ。

また、小規模な組織改編や人材確保には、運営費交付金とは別に改革推進のための補助金を出す。12年度から毎年設けており、来年度は今年度より35億円多い、220億円を財務省に要望している。

同省幹部は「18大学を選んだのは、高い水準の取り組みなら国もしっかり応援するという、ほかの国立大へのメッセージでもある」と話し、今後も残る国立大の改革を促す方針だ。

■国際化と機能強化に力

運営費交付金の重点配分を受ける予定の18大学の改革構想は、二つの類型に分けられる。教育研究のグローバル化と、分野ごとの機能強化だ。

グローバル化構想で多かったのが、海外から研究者を招いて教育研究拠点をつくる「取り込み型」だ。

建築とデザインを強みに打ち出す京都工芸繊維大学は、来年度にも世界で活躍する建築家やデザイナーを、助手らを含めたチームごと誘致する。待遇は年俸制で、海外の有名大学並みの高収入を示すという。古山正雄学長は「財政は厳しいが、重点配分は五輪の強化選手に選ばれたようなもの。必ずメダルを取りたい」と意気込む。

一方、アジア諸国の法整備支援に力を入れてきた名古屋大学は、海外拠点を強化する「外向き型」といえる。研究センターがあるベトナムやカンボジアを皮切りに、各国の提携大学にアジアキャンパスを設置し、それぞれの国の中枢を担う人材育成をめざす。東京医科歯科大学も、海外拠点のチリ大学などと共同学位コースを設け、国際競争力を強化する計画だ。

ただ、日本の大学の学位を授与できる海外校の設置には、国内と同じ基準を満たす必要があるなど実現へのハードルは高い。外国の大学と連名での学位授与には制度改正が必要となる。このため、両大学とも条件が整うのを待って踏み切るという。

分野ごとの機能強化で選ばれた秋田大学は、来年度に学部を再編して国際資源学部を新設。資源学教育の蓄積を生かして、国際的な資源エネルギー戦略の専門家養成をめざすという。

(渡辺志帆)

■重点配分予定の大学の改革構想の例

◇大学名 要求予算額
主な構想内容

◇秋田 3.3億円
学部を改編して「国際資源学部(仮称)」を新設予定。資源エネルギー戦略の専門家を養成

◇福島 2.8億円
福島の復興・再生・発展のために環境放射能研究所の機能を強化

◇筑波 6.8億円
学位取得に必要な教育を、学部の枠にとらわれずに受けられる「学位プログラム制」など国際的に通用する教育システムを構築

◇群馬 4.1億円
重粒子線治療の強みを生かし、統合腫瘍学などに関する教育研究拠点をつくる

◇東京 11億円
世界から人材が集う「知の拠点」国際高等研究所をつくり、最先端の国際共同研究の成果を教育へ移転

◇一橋 3.8億円
新入生全員に短期語学留学を必修化。国際的に通用する教育プログラムを整え、学生の流動性を高める

◇東京医科歯科 3.4億円
海外拠点があるチリ大やタイのチュラロンコン大などと共同学位コースを設置

◇東京工業 7億円
世界の一流大学のカリキュラムに対応した教育システムに転換。世界の理工系人材の交流拠点をつくる

◇名古屋 7.3億円
ベトナムやカンボジアにアジアキャンパスを設置し、各国の中枢を担う人材を育成

◇福井 4.5億円
教職大学院を付属学校と融合させ、県内の教員の資質を向上

◇京都 7億円
米ハーバード大などから研究者を招き、「国際連携スーパーグローバルコース(仮称)」を設置

◇九州 7.2億円
欧米の大学と連携した「国際教養学部(仮称)」を設置。英語で授業ができる新規教員を積極採用

◇長崎 6.3億円
英ロンドン大学などと連携した「熱帯医学・グローバルヘルス校」を創設

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