『産経新聞』主張 2013年10月11日付
医学部新設 「地域勤務」条件にしたい
東日本大震災後の医師不足が深刻化する東北地方に医学部を新設するよう、安倍晋三首相が下村博文文部科学相に検討を指示した。
下村氏も、「関係自治体が一つにまとまることが必要だ」と前向きな考えを示した。実現すれば、昭和54年の琉球大学以来となる。
医師養成には時間がかかる。既存の医学部の入学定員増で対応可能だとの意見もある。だが、地元に愛着を持って働く医師が輩出するには、東北地域への勤務を義務づけるような医学部の新設は不可欠ではなかろうか。
被災地では、医療機関は立て直せても、一度去った医師の呼び戻しは難しい。満足に医療が受けられない状況が続けば、復興にも影響が出かねない。
政府は、「東北」とは別に、国家戦略特区での新設も検討している。すでに千葉県成田市や静岡県が名乗りを上げている。
現在は、希望する大学があっても文科省告示で申請すら認められない。新規参入があれば既存医学部との役割分担や地域の事情に合った医師育成も期待でき、医学教育全体の活性化につながる。
医学部は西日本に偏り、医師不足の地域差を招く一因ともなっている。高度化、多様化する医療に対応するにも意欲とアイデアのある大学への門戸開放は必要だ。
ただし、せっかく医学部を新設しても、入学者の大半を他地域の出身者が占め、卒業後は大都市部などに流出するというのでは意味合いが薄れる。
既存の医学部との違いを明確にするためにも、医師不足が深刻な地元地域の医療機関に一定期間は勤務することなどを、入学条件とするぐらいの義務は課したい。
一方、国家戦略特区を活用しての新設が認められれば、安易な申請ラッシュも想定される。新設希望の大学や誘致を検討する自治体は全国に少なくないからだ。
法科大学院のような乱立を避けるため、申請は、薬学など医系学部を持つ大学に限ったり、学費水準を国公立大学並みに抑えたりする要件を設定してはどうか。
臨床医の育成とともに、先端医療や基礎医学を担う大学の整備も必要だ。医師不足の背景にある診療科目の偏在を招かない工夫も重要だ。政府は、既存医学部を含めた医学教育全体の在り方見直しの検討も進めてもらいたい。