『朝日新聞』京都版 2013年9月27日付
大学でどう教える?
大学でどう教えるか――。専門知識を身につける大学での講義のあり方を考える講座を、京都大学(左京区)が2005年から研究者志望の学生向けに開いている。参加者同士の討論や専門家による講義を一日中繰り返すハードな内容だが、人気は上々。背景には、研究職を巡る厳しい就職事情もある。
●「教育者」自覚促す
今年は8月5日に開かれた。参加者は、大学院の修士課程や博士課程に在籍する学生、すでに非常勤講師として働く卒業生ら約70人。専攻は人文・社会科学系、自然科学系の多分野にわたる。
この日は4部屋に分かれ、「大学の授業をどう思うか」をテーマに議論していた。
「大教室での一方的な授業はやはり面白くない」「研究に対する先生の情熱が感じられれば、少しくらい話し方が下手でも興味深く聞いていられる」――。
参加者は、そんな自身の体験を中心に持論を述べていた。
将来、研究者になるということは、同時に「教育者」にもなるのだと学生たちに自覚を促すとともに、専門分野の違う者同士の交流を深めてもらおうと、8年前に始まった。
ドイツ現代史が専門で、文学研究科博士課程2年の鈴木健雄(たけお)さん(27)は、アルバイト先で専攻を聞かれる度、専門的な事柄を分かりやすく伝える難しさを感じていたという。「自分が身につけた知識を、学界だけでなく社会全体に広く還元できたらいい」と語る。
「大学の授業の現在と未来」と題した講義では、米国の大学で人気を集める授業などをスライドを使って紹介。工夫次第では、大教室の講義でも学生が夢中になる例が示された。
講義と討論が中心のプログラム「ベーシック」とは別に、08年からは教育経験者向けの「アドバンス」も開講。代表者が約20分の模擬講義をした後、聞いていた全員で内容を検討する。
「話し方が単調」「レジュメの見出しをもっと魅力的にしないと学生が興味を持たない」など厳しい指摘のほか、「授業中に質問する場合、少し考える時間を与えた方がうまくいく」といったアドバイスも出た。
●厳しい就職背景に
大学の研究職では近年、採用試験の際に模擬講義を課す例が増えている。求職中の参加者には、その対策にも役立っているようだ。
スポーツ科学が専門で、人間・環境学研究科博士課程1年の田辺弘子さん(25)は「非常勤講師をしている先輩の中には、教え方で悩んでいる人もいる。どうやって授業を組み立てていけばいいのか、具体的な意見を交換できるのはとても貴重な機会」と話す。
講座の最後には、淡路敏之副学長から修了証が手渡された。厳しい就職環境の中、履歴書に記載することで少しでもプラスにしたいと考える切実な人もいる。
講座に携わる高等教育研究開発推進センターの松下佳代教授は「1日の研修でやれることには限界がある。もっと時間をかけて授業の課題について学び、実際に教えてみることが必要」と指摘する。
京都大ではすでに、より長期間かけてこうした問題に取り組める授業なども用意しているという。