法科大学院 抜本的改革で再生を図れ『西日本新聞』社説 2013年9月4日付

『西日本新聞』社説 2013年9月4日付

法科大学院 抜本的改革で再生を図れ

小手先の対策では、制度そのものが早晩立ち行かなくなるのではないか。そんな懸念すら抱かざるを得ない。

修了者の司法試験合格率が低迷し、統廃合や定員減を余儀なくされている法科大学院のことである。

このうち、2015年度の入学者募集中止を決めている島根大は、静岡大と連合・連携した広域型の法科大学院設置を目指して協議しているという。

実現すれば、近県以外の連合・連携は全国初となる。島根大は、静岡大とは地元に根付いた法曹(裁判官、検察官、弁護士)養成という基本理念が一致しており、教員の相互派遣などを通じて講義の充実も期待できる‐などとしている。

大学院間の広域的な連携が司法試験合格率の上昇など活性化につながるかどうかは予断を許さないが、窮地に追い込まれた法科大学院の「生き残り」を懸けた取り組みの一つといえるだろう。

厳しい状況は九州でも変わらない。

文部科学省の集計によると、九州の法科大学院6校では今春、総定員202人に対し入学者は過去最低の89人にとどまった。九州大は唯一、定員充足率が71%で5割を超えたが、入学者は前年より21人減って50人だった。九州の大学でも、今後は島根大と同じような対策を模索する動きが出てくるかもしれない。

法曹人口や法科大学院のあり方を考える政府の検討会議は、司法試験合格率の低い大学院に法的措置を取れる制度の導入を盛り込んだ最終提言をまとめた。補助金削減や教員派遣中止などで、半ば強制的に定員縮小や統廃合を促す内容だ。

検討会議の結論を受け、政府は司法試験の合格者を年間3千人とする計画の撤回を含めた提言を了承した。だが、これらを実行したとしても対症療法にしかなるまい。いま必要なのは法科大学院制度の課題を徹底的に検証することだろう。

司法制度改革の大きな柱の一つだった新しい法曹養成制度は、多様な経歴を持つ法律家を育てることが大きな狙いだった。法科大学院は受験技術優先の旧司法試験を重視した選抜を改め、学部段階での専門分野を問わず、幅広く人材を受け入れる法曹養成の専門職大学院として04年4月以降、各地に開校した。

実務教育も積極的に導入し、即戦力となる法曹を育てるのが大きな目的でもあった。ところが、現在の司法試験は旧司法試験より科目が増えたうえ、内容も以前と同じように判例や法解釈が中心となっている。今でも受験予備校に頼る学生は少なくないという。

これでは、たとえ法科大学院の合格率が多少上がったとしても、単なる司法試験の「受験支援機関」になるだけで、その存在意義が問われかねない。

どうすれば一般市民に法の恩恵を実感させ、頼りがいのある法曹を育てることができるのか。政府は司法制度改革の原点に立ち返り、司法試験のあり方も含めて抜本的な対策を講じるべきだ。

 

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