奨学金返済額1100万円も 大学院生の厳しい生活 『中日新聞』2013年8月29日付

『中日新聞』2013年8月29日付

奨学金返済額1100万円も 大学院生の厳しい生活

返済に苦しむ人が増え続け、社会問題化している奨学金。研究者を目指す大学院生が、厳しい生活実態や将来への不安を語ってくれた。「貸与型」から返済不要な「給付型」への転換など、制度改善を求めて今年三月、法律家や教育関係者らが奨学金問題対策全国会議を設立したが、国の財政難の中、解決への糸口すら見いだしにくい。

◆学業多忙でバイトできず

東海地方の理科系大学院一年の男性(25)は現在、学費や生活費を全て奨学金で賄う。父親の勤め先の会社の経営状態がよくなく、仕送りに頼れない。「この状況で大学院に進学することの苦しさを、日々実感しています」と打ち明ける。

四年で卒業した大学も、通学中の大学院も国立。学費と入学金の合計は九年間で約五百四十万円。生活費の借り入れもあり、奨学金(一部は利子3%)の返済予定額は約一千百万円になる。大学時代はアルバイトで生活費を補った。「今は実験や勉強で忙しくて時間がありません。バイトをしている人もいるそうですが、研究に十分には集中できないはず」

一カ月の食費は一万二千円ほど。朝食は食パン二枚と、インスタントコーヒー一杯。昼食は、冷凍保存しておいたおにぎり二個とふりかけ、インスタントみそ汁。夕食はスーパーの閉店間際の割引で買った食材で作ったおかず一品と、冷凍保存しておいたご飯。「私より食費を削り、一カ月一万円未満の人もいます」

教科書や教材は専門性が高く値段が高い。図書館で借りることが多いが不便だ。卒業後は多額の「借金」を二十年間で分割返済しなくてはならないのに、将来収入が十分に確保できる保証もない。「理系では、大学院に進まなければ専門性を生かした活躍ができにくい社会構造になってきました。お金がある人しか安心して学べないのは、あまりにもおかしいと思います」

◆制度改善求める意見書採択を

男性のような事例は珍しくはない。大学などの学費はひと昔前に比べると格段に高く、暮らしぶりに余裕がない世帯も増え続けている。奨学金利用額は膨らみがちで、就職先が低収入の非正規労働だった場合は返済が難しくなる。今は大学生の約半分、大学院生の約六割が何らかの奨学金を利用しており、返済が滞っている卒業生は全国で約三十三万人に上る。

このため奨学金問題対策全国会議などが、返済困難者の救済制度充実や、給付型奨学金を国としてつくること、学費抑制などを国に働きかけている。二十四日には名古屋市内で、奨学金問題をテーマにした地方議員の勉強会があり、全国会議の大内裕和会長(中京大国際教養学部教授)が「多くの地方議会で、制度改善を求める国への意見書を採択してほしい」と訴えた。

文部科学省は日本学生支援機構が大学生らに貸与している奨学金の無利子枠や、返済困難者向けの救済策を拡大する方針だが、同機構の給付型奨学金制度の創設は見送る方針。これに対し、大内会長は「深刻な状況なので、微々たる前進としか言えない」と話した。

(白井康彦)

 

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