『読売新聞』社説 2013年8月19日付
大学入試改革 混乱招かぬよう丁寧な議論を
入試制度の改革は、教育現場や受験生に大きな影響を与える重要テーマである。丁寧かつ多角的な検討が求められる。
政府の教育再生実行会議で、大学入試に関する議論が始まった。自民党が参院選の公約に盛り込んだ「達成度テスト」を導入するかどうかが焦点だ。
達成度テストは高校生を対象に、年に複数回実施される。受験生はテストの最も良い成績を大学に提出する。大学はその成績で基礎学力を把握し、思考力や問題設定能力を測る独自の選考も行う。そんな構想のようだ。
「一発勝負型」の現行入試に対しては、受験生に過度の負担をかけているとの批判がある。
選考の機会が増えれば、受験生は運に左右されずに実力を発揮しやすくなる。大学が優秀な人材を見いだすうえにも有効だろう。
面接などで選抜するAO(アドミッション・オフィス)入試や推薦入試が広がった結果、高校生の勉強時間が減り、学力不足は深刻化したと指摘されている。
達成度テストという新たな目標を設けることで、高校生の学習意欲を喚起し、学力の底上げにつなげたいとの狙いも理解できる。
だが、費用対効果はどうなのか。達成度テストは全く新しい選抜方式だけに、学力を正確に見極める問題の作成や、全国一斉に実施する試験の運営には多大なコストがかかると見られる。
難易度や教科数をどう設定するかという課題もある。
大学入試センター試験の存廃も検討しなくてはならない。
1990年にスタートしたセンター試験は、高校段階の学習到達度を判定する統一試験として、広く定着している。入試に利用している大学は国公立だけでなく、私立大学でも9割に達している。
仮に廃止すれば、現場の混乱は避けられまい。
複数回行う試験が高校3年の早い時期から実施されれば、授業の前倒しによる詰め込み教育が加速することも想定される。
「高校生がテスト対策に追われ、学校行事や部活動に大きな制約が出かねない」と高校関係者が危惧するのはもっともだ。
浪人生や社会人はどのように達成度テストを受けるのか、という問題も忘れてはならない。
教育再生実行会議は秋にも提言をまとめる予定だが、拙速な議論は禁物だろう。入試制度の見直しは、高校・大学双方の教育の質をいかに向上させるかという視点で進めることが肝要だ。