大学秋入学 社会の後押しが必要だ『北海道新聞』社説 2013年7月18日付

『北海道新聞』社説 2013年7月18日付

大学秋入学 社会の後押しが必要だ

 大学を活性化させるには、優秀な研究者や留学生を相互に交流させ、国際競争力を高める必要がある。

 秋入学が主流の欧米各国と歩調を合わせるかのように、東大が昨年、秋入学を打ち出したのは、こうした戦略がある。

 国際化を視野に、多様な文化・価値観を尊重できる人材の育成も欠かせない。こうした時代の要請に応える狙いもあったろう。

 しかし、結果的に当面の導入は見送られた。事前準備に周到さを欠き、他大学の賛同を得られなかったことが背景にある。経済界の共感も呼び起こすことができなかった。

 東大にとっては大きな誤算だろう。だが、これまで春入学が慣例となってきた日本の教育制度に一石を投じた意義は小さくない。

 浜田純一学長は「秋入学を諦めたわけではない」と語り、今後も入学時期の変更を模索する方針だ。

 東大の動きに呼応して、文部科学省は「推進」の立場から有識者会議を設置する考えを示している。大学教育のあるべき姿を見据えた慎重な論議が不可欠だ。

 秋入学の検討にあたり、忘れてならないのは、これが大学に限定した問題ではないということだ。幅広い社会のコンセンサスが必要だ。

 とりわけ難題は、現行制度のままでは入学前と卒業後に生じる空白期間をいかに解消するかにある。

 小中高校の卒業時期や就職・国家試験の時期も並行して変えていかなければ、導入は難しい。社会全体で知恵を絞らねばならない。

 東大が秋入学を提唱したもうひとつの理由は、国内の優秀な人材が海外に流出している現実に対し、強い危機感があるからだ。

 英国の高等教育専門誌の昨年の調査では、世界における東大の位置づけは、米ハーバード大などに大きく水をあけられ、27位にとどまった。これが秋入学の実現に駆り立てていると言っていい。

 東大は当面の秋入学を見送る一方で、次善の策として4学期制の導入を決定した。

 授業の密度を高めて各学期を2カ月に短縮するシステムだ。長期休暇の取得や、海外の入学時期に合わせた留学が容易になると説明するが、教育的な効果は未知数だ。

 東大の秋入学構想をめぐっては、北大など旧帝大を中心に12大学が連携組織を設置して検討を始めた。

 北大の山口佳三学長は「秋入学を念頭に置きつつ、4学期制の導入を前向きに考えたい」と、現状の変更に肯定的な意向を示している。

 大学が社会と密接に関わる存在であることを議論の前提にしなければならない。

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