奨学金よりよいあり方は 文科省検討会、拡充へ中間案『朝日新聞』2013年06月28日付

『朝日新聞』2013年06月28日付

奨学金よりよいあり方は 文科省検討会、拡充へ中間案

 【大西史晃】学生への経済支援は、どうあるべきか――。その方策を議論してきた文部科学省の検討会の会合が17日にあり、無利子奨学金の拡充などを盛り込んだ「中間まとめ」案が示された。財源の確保などハードルは高いが、文科省は検討会での今後の議論も踏まえて来年度予算の概算要求に反映させたい考えだ。

■財源の確保が課題

 大学生の約4割が利用している日本学生支援機構の奨学金は、 規模の拡大や不況の影響で未返還額が増加。2011年度末で、約876億円に上っている。返還促進策が強化される一方、利用者の負担軽減を求める声も上が るようになった。文科省は具体的な方策を探るため、専門家らによる「学生への経済的支援の在り方に関する検討会」(主査=小林雅之・東京大教授)を設置。 4月から会合を重ねてきた。

 17日の中間案には、現在の学生が置かれた経済状況や支援の目指すべき方向を記し、各制度の改善策も盛り込んだ。▽貸与型の奨学金は無利子を基本とし、拡充する▽社会人の学び直しも奨学金で支援する▽返還の方法や金額は、限定的になっている所得連動型の対象を広げ、より柔軟な形にする▽年10%の延滞金の利率を引き下げる――といった内容が並ぶ。

 最大の焦点は、給付型奨学金の 導入だ。委員の間で創設を求める声は強いが、「借りて返すという現行のシステムには教育的側面がある」との意見もある。最初から給付が約束された形がいい のか、それとも一定の成績を修めた場合に返還を免除する形にするべきか、という制度設計上の課題もある。論点が多く、今後も検討が続けられる見込みだ。

 文科省は中間まとめを今夏中につくり、方向性が固まった部分は、概算要求に反映させる。ただ、財源が必要な方策が多く、ハードルは高い。給付型については、2年前に147億円を概算要求したものの、財務省に認められなかった経緯がある。14日に閣議決定された「第2期教育振興基本計画」では、教育予算は「経済協力開発機構(OECD)諸国並みを目指す」とした文言の掲載が見送られている。

 だが、文科省の担当者は「OECD並みにこだわらず、必要な経費を積み上げて予算を取っていきたい」とする。給付型については、学内の業務を手伝うことと組み合わせて奨学金を与えるなど、様々な形を検討していくという。

■生活切りつめ返済

 学びを支援する奨学金。だが、不況で厳しい雇用情勢が続く中、その返還に苦労する人は多い。

 「金額を知った時、何で自分は大学に行ったんだろうと後悔しました」。都内に住む女性(25)は、日本学生支援機構から届いた1通の通知書を手に、そう振り返った。

 高校を出て短大に進学。その後、将来の就職を考え、大学に入り直した。実家は母子家庭。生活は楽ではなく、奨学金がないと進学は難しかった。短大、大学を合わせて計6年間機構の奨学金に頼り、昨春に卒業。数カ月後に届いた通知書で、約900万円の「借金」を知った。

 しっかり返したい思いは強いが、卒業後に働き始めた事務職員の給与はまだ低く、月に約4万円の返還は難しい。自宅のインターネット用回線を止め、新聞の購読もやめて節約。年収300万円以下の場合、月々の返還を半額に抑えてもらえる制度を利用し、やりくりしている。

 「今の世の中、仕事に就くのも大変。椅子取りゲームですよ。私は事務職員になれたけど、そうでなければ、どうなっていたか」と話す。奨学金制度の充実が議論されているが、「私はむしろ、大学の学費が高すぎること自体を何とかしてほしい。奨学金の返済は大変だし、お金がないなら学校に行かないという子が増えたら、それは社会にとっていいことなのでしょうか」。

 都内の男性(51)は統合失調症と診断され、数年前、障害で働く能力を失った場合などに認められる奨学金の返還免除を、機構に申請した。だが、見解の違いから認められず、返還猶予の状態が続いている。現在は、生活保護を受けながら自立を目指そうと職を探す。年を重ねるにつれ、自身の将来と残されたままの奨学金への不安が募る。

 返還に悩む人たちを支援している首都圏なかまユニオンの伴幸生・副委員長は「やむを得ない理由で返せない人については、どこかの時点で返還を免除するべきではないか」と指摘。回収策の強化ばかりが進んでいるとし、「入り口では奨学金だが、返す段階では単なるローンのようになっている」と、現状を批判する。

 

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