「技術立国」復活へ研究費配分を見直せ『日本経済新聞』社説 2013年6月19日付

『日本経済新聞』社説 2013年6月19日付

「技術立国」復活へ研究費配分を見直せ

 科学技術への重点投資で新たな製品やサービスをどう生みだし、経済成長につなげるか。安倍政権は成長戦略で「科学技術創造立国の復活」を掲げたが、それを実現する道筋や手段が見えない。

 日本の研究開発費は頭打ちが続き、世界の論文や特許に占めるシェアは急低下している。一方で中国などが台頭し、日本の技術力は揺らいでいる。政府は危機感を強め、科学技術研究の立て直しへ実効性のある具体策を示すべきだ。

 成長戦略では「優位だった技術で負ける例が出ている」との認識を示し、「技術で勝ち続ける国」を目標に掲げた。国の総合科学技術会議の提言も踏まえ、政策立案の司令塔機能の強化や、先端分野で新たな国家プロジェクトを始動させることなどを盛った。

 資源の乏しい日本にとって、独創的な研究を育み、優れた製品を開発する戦略は欠かせない。そのために司令塔の強化などが必要なことには違いないが、取り組むべき優先順位はそれでよいのか。

 日本の研究投資のうち2割は公的機関や大学、8割を企業が担っている。だが民間投資はリーマン・ショック後の不況からの回復が鈍く、ピークだった2007年度より1割近く減ったままだ。財政が厳しいなか、国の研究費の大幅な増額も容易ではない。

 最優先すべきは、国の研究費の配分を見直して無駄を極力減らし、大学などで生まれた基礎的な成果を企業の応用研究に効率的に橋渡しする仕組みづくりだ。

 科学研究費補助金(科研費)に代表される「競争的資金」の改革は急務だ。同研究費は研究者に資金獲得を競わせ、ぬるま湯体質とされた大学などの活性化に一定の効果をあげてきた。半面、8府省で20以上の制度が乱立し、研究費の重複配分や使い勝手の悪さが指摘されている。

 制度を整理し、研究費を使いやすくする必要がある。いまは実験補助員や博士研究者(ポスドク)の正規雇用に使えず、ポスドクの多くが身分が不安定な非正規雇用のままだ。次代を担う若い頭脳が研究に専念できる環境づくりと併せて対策を示すべきだ。

 約20ある研究開発型の独立行政法人のあり方や資金配分も改革が避けられない。独法で生まれた成果を産業界にどう橋渡しするか。税制や規制を見直し、産官学の共同研究や人材交流を促す施策が欠かせない。

Proudly powered by WordPress   Premium Style Theme by www.gopiplus.com